既存の金融規制と銀行について。バーゼル規制、信用創造、AML/CFTに見る銀行規制とは?

今回は現在の銀行に対する規制の枠組みについて、解説したいと思います。

※「金融」の役割や機能に関する全体像を解説した金融初心者おすすめ記事の続きとなっておりますので、まだお読みでない方はこちらからどうぞ。

金融規制の三本の柱

「なぜ金融当局がその規制を行うのか」という観点から考えると、大部分の金融規制には以下の3つの目的があると考えられます。

  1. 金融システムの維持、そのための信用創造に対する制約
  2. 顧客保護
  3. AML/CFT

より金融規制の全体像を把握するために必要な”鳥の目”として特に重要な①と③について、以下みていきましょう。

信用創造に対する制約

中央銀行が信用創造を規制する背景には、「中央銀行の中央銀行」と呼ばれるBIS(Bank for International Settlements)の存在があります。

BISは1988年、G10諸国に対して、自己資本比率8%を義務付け、未達成の中央銀行への罰則を含めた「BIS規制」を発出したことを皮切りに、複数のレギュレーションに関するアナウンスメントを継続しています。

各国の中央銀行はこれらのアナウンスメントに対応する形で、信用創造に関して様々な規制をするようになったのですが、このBISから特に批判されているのが、日本のメガバンクです。

日本のメガバンクは自己資本比率が高いことで有名ですが、BISが2010年のバーゼル3で自己資本比率に関する計算式を変更したのは、日本の銀行の自己資本比率の低さが原因であったと言われるほど。

ではなぜ自己資本比率の高さが批判されるのでしょうか。なぜバーゼル規制によって自己資本比率を高め、信用創造のしすぎを防ぐ必要があったのでしょうか。

自己資本比率を高める理由

この問いへの答えを探すカギとなるのが、銀行のバランスシートの特性です。
バランスシートの右側の「負債」「資本」は「お金がどこから入ってくるか」というお金の入り口を表しており、左側の「資産」は「どこに使うか」というお金の出口を表しています。
資本とは株や債券などを内包したものですが、バランスシート左側の資産を運用してお金を稼ぐと利益剰余金として資本に入ります。となると、資産をどう運用するかが銀行の収益となりますので、資産はどんどん使わないといけない。しかし、銀行の預かり資産=負債が大きくなってしまうことは、運用可能な「資産」をも肥大化させてしまいます。
現在日本の銀行の預かり資産額は100〜200兆円あると言われています。つまり、運用可能な「資産」も同額。
しばしばメガバンクが企業を買収し、話題になりますが、これも運用する「資産」があまりにも大きいことが背景にあります。結果、日本経済ひいては世界経済にまで影響を及ぼすことになります。
特に有名なものに、バブル全盛期に三菱傘下の三菱地所がニューヨークのロックフェラー・センターを購入した例がありますね。
このようなお金の使い方を、BISでは「不健全である」として、バーゼル規制によって自己資本比率の最低基準が規定されているのです
バーゼル規制は現在Ⅱが適用されており、2017年にはバーゼルⅢの方向性についての最終的な合意がなされました。
日銀のホームページではバーゼル規制、BISについての詳細な解説が掲載されており、参考になります。

 

参考 バーゼル合意、バーゼルI、II、IIIとは何ですか? いわゆるBIS規制とは何ですか?日本銀行

AML/CFTの重要性

AML/CFTとはAnti Money Laundering / Countering the Financing of Terrorismの略であり、日本語では「マネーロンダリング対策・テロ資金供与防止対策」と呼称されます。

マネーロンダリングとは資金洗浄とも呼称され、犯罪の収益を「洗浄」、すなわち何度も各口座を移転させて足がつかないようにすることでさも「普通のお金」であるように見せかける手法のことを言います。

AML/CFTが注目されるようになったのは2001年の世界同時多発テロです。この同時多発テロ以降、AML/CFTを各国が実施することでテロリストへの資金流出・資金洗浄の防止がなされるようになりました。

世界的にこのAML/CFTを主導するのがFATF(マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)と呼ばれる政府機関です。FATFは数年に一回、各国の金融当局に対して審査を実施、AML/CFTの徹底具合を調査します。もしそこでマネロン対策が不十分であるとFATFが認識した場合、その国には勧告が出されてしまいます。国家にとってこのFATF勧告を受け続けることは「自国の金融機関はマネロン対策をしていない!」と名指しされることに他ならず、自国の金融政策の名誉にも関わってくる以上、絶対にこのAML/CFTは実施せねばなりません
では具体的にはどのような手続きでこのAML/CFTを実施するか、ですが、両者とも実体的手続きはほぼ一緒です。以下順に見ていきます。
  1. まずはKYC(Know Your Customer)を通じて顧客の身分を明らかにします。この際、運転免許証やパスポート、外国籍であれば在留カードなどを提示します。
  2. CFTの一環として、金融機関で保持しているブラックリストと照合して「反社会的勢力ではないか」「テロ組織の関係者ではないか」「政府の要人ではないか」といったチェックを行います。場合によっては犯罪歴や取引に関するデューデリジェンスも行います。
もしCFTを実施しない国がある場合にはその国を経由してマネーロンダリングが行われてしまいますので、マネーロンダリングを行う国は事実上世界の金融・経済圏から弾くことになっています。
となるとそれぞれの国では金融機関が血眼になってAML/CFTを徹底しようとするのです。
それぞれの金融機関のマネロン対策の達成度は自国経済へも影響を及ぼしうる、ということですね。
さて日本を見てみると、日本は2019年にFATFによる第4次審査を控えています。日本は実はAML/CFTの不徹底について過去何度かFATFに勧告を受けていますので、今度こそはクリーンにクリアしたいと金融庁・金融機関は様々な金融規制を実施しているのです。
ちなみに過去に特に問題視されていたのが地銀であり、システムの不備や国際送金・取引に関するモニタリングの不徹底、顧客の情報管理の不十分さについてFATFに手厳しく批判された、という背景があります。
監査法人EYアドバイザリーによって解説記事が書かれており、必見です。
仮想通貨も同様で、2017年には仮想通貨業界に友好的だった金融庁が2018年に規制強化・ICO制限の方向性に方針転換した背景にはFATFの第4次審査があります。
本サイトでは規制当局が仮想通貨(暗号資産)を規制する理由に関しての解説記事を公開していますので、ぜひご参照ください。
ここまで金融規制が実施される背景について概観してきました。
まとめると、金融機関に求められる規制は①金融秩序の維持②顧客保護③AML/CFTに分類されます。
①については、その手段として信用創造を規制し、バーゼル規制によって自己資本比率のボーダーを定めています。そして③が規制当局や金融機関にとってはFATFという国際機関としての合意がある以上もっとも重要な観点であり、日本も2019年の対日審査を控え、これが仮想通貨事業に関する規制にも繋がっているのです。
金融規制は複雑であり、理解には時間と背景知識が多く必要になりますが、以上の観点を踏まえながら理解していくのが穏当かなと個人的には思っています。
世界的な規制の方針についてより知りたい方はこちらの本がわかりやすく、評判も良いです。
こちらの本は日銀出身の著者が個別具体的な規制について解説しています。
日銀は金融業界ではもっとも「見晴らしの良い場所」なだけあって、日銀出身の方は深い知識を体系づけて理解している人ばかりで非常に優秀です。分量は多めですがぜひ一度読んでみてください。

 

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