SBIのブロックチェーン・分散型台帳技術に対する取り組み姿勢を解説してみる

2018/12/10に早稲田で開催されたブロックチェーンのキャリアイベントでSBIグループのブロックチェーンに対する取り組みを聞きました。一金融機関であるにとどまらず、独自の経済圏を構築することに成功しているSBIグループの取り組みは非常に面白いなあと感じたので、今日はそれを少し解説したいと思います。
今回のイベントではSBIバーチャルカレンシーズ副社長の斎藤亮様がお話くださいました。斎藤様はSBIグループ15社の一つ、SBIバーチャル・カレンシーズの代表取締役および国内外数社の社外取締役を兼任し、日本仮想通貨事業者協会(JCBA)の理事でもあります。

SBIグループの大きさについて

さてSBIグループは創業後16年で世界で極めてユニークなネット金融を中心とした金融コングロマリット(フィンテック1.0)を完成させた会社です。SBIは内部のグループが非常に多様ですが、ざっくりどれくらい大きいか把握するために証券と銀行についてみてみましょう。より詳しく組織図を見たい方は、SBIグループの公式サイトに鳥瞰図がありますので、ぜひご覧ください。
まず規模としては、証券口座数で野村證券に次ぐ業界二番手の水準であり、2017年9月に400万口座を突破しています。これは証券業界における純利益としては業界3位であり、大和証券、野村證券と並ぶ日本屈指の証券会社であることがわかります。また住信SBIネット銀行についても口座数は340万を超えています。
そのほかにもフィンテック関連企業に投資しており、ブロックチェーン関連企業としてRipple,R3,Bitflyer,Omiseなどに、ブロックチェーン以外のフィンテック企業として決済のOrigamiや会計ソフトのfreeeなどにも投資しています。
全体としては多種多様な金融事業を実施しているグループですが、SBIグループとしてはアセットマネジメント、金融サービス、デジタルアセットを基盤とする新たな生態系、バイオ関連事業など既存の生態系と新たな二つの生態系が有機的に結合し、単独企業ではなし得ないシナジーを創出することを目標にしており、実際に実現していると言えるでしょう。

銀行コンソーシアム設立の背景

さてSBIグループは銀行のコンソーシアムチェーンを設立、積極的な実証実験を行なっています。
過去の銀行決済は関わるステークホルダーが非常に多く、例えば日本国内の他行へは国内送金ネットワークを経由せねばならず、海外に送金する際に至ってはコルレス銀行(海外送金専用の銀行)を通し、さらにSwiftネットを経由せねばなりませんでした。
これを効率化するために国内外為替の一元化を図っているのがコンセンサスがない形の分散型台帳Rippleであり、コンソーシアムチェーンの実現によって従来のステークホルダーが多かった銀行決済を「24時間化」「リアルタイム化」「小規模化」することが可能である、とSBIは考えています。
SBIグループとしては今後の規制強化に対応するとともに、金融機関および利用者双方にメリットがある仕組みの構築を目指すようです。具体的には斎藤様はKYCの仕組みについて指摘されていました。
金融機関は口座開設を希望する顧客に対し、本人確認(KYC/Know Your Customer)を実施することが資金洗浄やテロ資金供与の対策のためにも必須となっています。しかしKYC時に必要となる手続きや書類はどこの金融機関も一緒であるゆえ、利用者にとっては毎回同じ手続きをせねばならず、煩雑・非効率です。
そこで本人の情報を分散型台帳に記録すれば、ある銀行でKYCを終え、本人であると確認された時に分散型台帳に記録することで他の銀行も同一の帳簿を確認するだけですみ、金融機関にとっても利用者にとっても利便性が向上するでしょう。
SBIグループでは実証実験をすでに終えており、結果としてユーザーの負担感を軽減し、90%の証券会社で口座開設までの時間を短縮することに成功しているそうです。

Sコインプラットフォーム

またSBIグループは分散型台帳のみならず仮想通貨に関する活動にも力を入れているようで、「Sコインプラットフォーム」と呼ばれる独自決済用コイン発行プラットフォームを提供しています。このプラットフォームを利用することで地域通貨の発行等が簡便になり、決済端末や加盟店側の相互利用・相互送客が可能になるようです。
これも実証実験として「UC台場コイン」と呼ばれる実証実験を開始しています。
これはUCカードがコインの発行かつ決済業務を、SBIホールディングスが発行管理システムの運営を、そしてOrbがシステムのベースとなる分散型台帳技術Orb DLTの提供および周辺機能の開発をそれぞれ担うものです。ユーザーにとっての利便性はさほど変化はないものの、他のSuicaなどの前払い式支払い手段で利用する時にかかる預託金や端末の用意などのコストが大幅に削減されるようです。
今回はSBIグループの分散型台帳システムおよび仮想通貨に対する取り組みについてまとめました。既存の銀行サービスの効率化を重視する点でブロックチェーンのスタートアップとは異なりますが、SBIグループの動きは金融機関としては非常にグローバル・イノベーション志向が強いもので、かつグループ全体としてもフィンテックに力を入れ経済圏の創出に成功しているものであるということが伝われば嬉しいです。
分散型台帳やプライベートチェーンをブロックチェーンを呼ぶのか?問題はしばしば話題に上がるものの、ブロックチェーンの活用可能性について書いた本としてはこの本が有名です。
まだお読みでない方はぜひ。
では!