【最新解説】Facebookが発表した仮想通貨「Libra」について、性能や参加企業まとめ。

本日6月18日、世界最大のSNSであるFacebookが中心となって発行を予定している仮想通貨「Libra」のホワイトペーパーおよびその関連ドキュメントが公開されました。

立ち上がったばかりのプロジェクトがここまで充実したドキュメントを発表することは珍しく、Facebookの本気度がうかがえるものになっていますが、一方で量が多くどこまで読んで良いのかわからない・現状どの程度インパクトがあるものかわからないという意見も多いかと思います。

 

今回は約3時間前に発表されたばかりのLibraについて、

  • 現状わかっている性能をホワイトペーパー中心に外観
    • 技術面(コンセンサスアルゴリズム、言語、ノードなど)
    • ビジネス面(ビジョン、参加企業、ロードマップなど)
  • 自分なりの考察ー競合となりうる企業との比較
    • パブリック型ブロックチェーン(EOS、XRP)
    • コンソーシアム型チェーン(R3、Corda、Hyperledger Fabric)
  • 現状公開されている日本語の文献まとめ

について簡単に書いていきたいと思います。

ホワイトペーパー・ドキュメントから見るLibraの性能

技術面

基本的な性能

LibraはFacebookが2018年初頭から開発を行なっていたようです。最初から独自経済圏を作る試みがあったようで、言語、コンセンサスアルゴリズムとも既存のチェーンをなぞりながらも独自のものを開発しています。

言語はMoveと呼ばれる新言語を利用します。Rustライクな言語のようです。またEthereum同様スマートコントラクト指向のプラットフォームです。

コンセンサスアルゴリズムにはBFTを利用し、オリジナルのLibra-BFTとなるようです。以下LBFTと勝手に略します。

このLBFTはpBFT同様全バリデータの3分の1までの不正を防ぐことができるとのことで、GithubによればHotstuff consensus protocolに基づいたもののようです。これは最近出てきたコンセンサスアルゴリズムのようですが、私は知らなかったのでよくわかりませんでした、どなたかご存知の方教えてください。

一応Githubを見ると、HotStuffは単純・モジュール性があり開発がしやすく、合意した後スムーズにブロックの接続が可能であるとのことでした。

一応パブリックチェーンのようなPoWについては検討された形跡がありますが、スケーラビリティの観点・セキュリティの観点から見送られたようです。

Libra協会

ノード(バリデータ)は少なくとも最初から100以上参加する見込みとのことです。

ここでFacebookによる独占および不正防止対策のため、Libraは非営利の団体「Libra協会」をスイスに立ち上げています。

Libra協会はコンセンサス・ブロックの生成を行い、協会のメンバーは協力した報酬としてLibraを手に入れることができます。参加するにはかなりの資力が必要となり(最低でも10M$以上。一票は10M$)、当面スタートアップが加入することは難しそうです。

より具体的にはLibra協会の運営組織としてLibra協会評議会が存在し、加盟する団体の代表者によって評議会が運営されています。ここでの投票をもって、Libraのチェーンの運営を実施していくことになります。

Facebookは規制の関係で子会社Calibraを設立、この評議会の一員として参加しています。あくまでも主導はするものの最終決定権を担うのは評議会である、というのがLibraの趣旨であるようです。

そしてCalibraとFacebookはファイナンシャルデータを共有せず(Calibraはファイナンシャルデータを提供しないというアナウンスを出している)、Calibraがファイナンシャルデータとして持つ信用スコアや投稿に対するインパクトに基づきLibraを手に入れることができます。Libraには通常の入手手段としての貸付とこのような入手手段があるというわけです。

また協会のメンバーは開発にコミットすることを求められますが、その報酬として、Libraリザーブから生み出される利息の分配を手にすることができます。

具体的にはツートークンシステムを採用しており、MakerDAOのようにLibraに加えLibra Investment Token(LIT)と呼ばれるトークンが存在しており、これによりガバナンスに参加することが可能になります。

Libraリザーブ

Libraの新規発行は基本的に法定通貨と交換する形でなされますが、Libraの特徴として、中央銀行が発行する通貨や国債とのLibraバスケットが存在することが挙げられます。

例えばUSDTはドルペッグの仮想通貨として知られています。この「ペッグ」とは1対1での変動、という意味です。一方Libraの「バスケット」とは複数の通貨に依拠した価格変動が起きる、という意味になります。

つまりLibraはドルとの1対1の価格変動ではなく、複数のfiat(と国債)の価格に基づきその価格が決定することになります。

これはビットコインやイーサリアムのようなボラティリティを避ける目的のようです。現実世界の急速な利用拡大を目指すFacebookにとっては必然の選択かもしれません。

匿名性

Libraは匿名性を重要視しているようです。現実世界と切り離したIDをLibraのネットワーク上で持つことができるようになる、とのことですが、マネーロンダリングの問題や規制する当局がどこになるのかといった問題が残ります。日本ではLINEのLINK Chain同様に仮想通貨該当性が問題になるでしょう。

関連記事:LINEのブロックチェーンに対する取り組みーLINK Chainについて

ビジネス面

ビジョン

ここからはビジネス的な観点からLibraについてわかっていることをまとめていきます。

Facebookが発表しているLibraのビジョンとして、富の再配分に近いことがホワイトペーパーに記述されています。

しかしより本質的には、Libraのネットワークを利用した「Facebook経済圏」を創出することが目的である、ということに異論はないでしょう。

後述しますがこのLibraには当初からeBay,Uber,Visa,Spotify,Booking.comといった名だたる企業が参加しています。Libraを使ってeBayでネットショッピングをしたり、Uberで車に乗ったり、Spotifyで音楽を聞いたりすることができるようになるかもしれない、ということです。Booking.comで旅行もできるようになるかもしれません。

従来のコンソーシアム型チェーンはあくまでも金融の文脈に限定されていましたが、Libraは(おそらく意図的に)銀行やR3、Cordaといったコンソーシアム参加企業を省いたネットワークを作り上げています。

参加企業

Libraがブロックチェーンの業界に与えた最大のインパクトはその参加企業の多さでしょう。

「libra」の画像検索結果

現在わかっているだけでもペイメントの代表格Visa,Mastercard,Paypal、Amazonの競合ECサイトEbay,シェアライドのUberと米国で人気のLyft、Spotify,Booking.com、米国の通信会社で根強い支持のあるVodafoneが参加しています。

またソーシャルグッドに寄与すべく、女性起業家を支援するWomen’s World Bankingや被災地支援のMercy Corpsも参加しています。

また仮想通貨という点から見ても、Coinbaseが参加していることから、Libraが正式にローンチされた暁には上場が見据えられています。

そしてa16z、USV名だたるシリコンバレーのVCがプライベートエクイティですでに投資を済ませています。

個人的にはa16zに筋が良いと判断されていることはなかなかインパクトがあるんじゃないかと思っています。

関連記事:IT業界と今後のビジネスモデルを指し示すアンドリーセンの言葉、「software is eating the world」について。 

ロードマップ

今後についてもホワイトペーパー含むいくつかのドキュメントで道筋が示されています。

現在テストネットがすでに公開されていますが、メインネットのローンチは2020年になるようです。

また現在はコンソーシアム型のチェーンで運用されていますが、スケーラビリティとセキュリティの問題を注視しつつ、パブリックに公開していく見通しのようです。

ただ個人的には、仮にLibraを使った経済圏が多くのユーザーを取り込んだ場合、そのデータ全てが公開されることは流石にないんじゃないかと思っています。

考察ー競合になりうる企業との比較

ここまで簡単にLibraについて見てきました。ここから既存のプロジェクトと簡単に見比べて見たいと思います。

まず委員会+BFT+スマートコントラクトという点では、EOSが競合として挙げられます。またXRPともペイメントの観点からは競合のように見えます。リリースされれば生活圏でいきなり使えるようになるLibraの方が普及する現実性がありそうな気もしますが、Libraが除いている金融機関(特に国際送金)でのペイメントには引き続きXRPが利用される余地はありそうです。

またコンソーシアム型チェーン(R3、Corda、Hyperledger Fabric)が様々ありますが、これらを利用している企業がどれもPoCでとどまっており、参加企業は多かれど未だ実際に実社会で利用されるに至っていないこと、あくまでも金融機関同士の台帳管理での利用がベースとなっていることを考えると、いきなり多くのパートナー企業を取り込んだLibraにはネットワークの強みがあると言えそうです。Quorumも同様です。

ドキュメント

ここまで技術面・ビジネス面でのLibraの概要についてと、他の競合となりうるブロックチェーンについて見てきました。

最後にこの記事を書くにあたって参考にしたドキュメントを上げておきます。みなさんこちらも参考にどうぞ。

また以下は英語版ですが、読んでおくと参考になる資料群でした。

まとめると、Libraは参加企業のネットワークにみる強みがあり、実際にローンチされればいきなり実社会で利用することができる点が強力です。ローンチさえすれば普及することが目に見えているため、Facebookとしてもスケーラビリティに考慮したパーミッションドチェーンを利用し、着実な開発を進めているようです。

しかしBinanceレポートにもあるように金融機関(特に銀行)が全く含まれていない点、ステーキングの詳細が不明である点などまだまだ課題は多いです。ここについては引き続き注視する必要がありそうです。

 

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