IT業界と今後のビジネスモデルを指し示すアンドリーセンの言葉、「software is eating the world」について。

「software is eating the world(ソフトウェアが世界を飲み込んでいる)」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。

IT企業にコミットしている人やシリコンバレーのビジネスの状況に詳しい人、また投資家の方にとっては馴染みのある言葉かもしれない一方で、それらとは無縁であれば聞いたことがないかもしれません。

しかしこのフレーズはシンプルでありながら、今後の世界の姿を端的に指示したものであり、このフレーズの意味を知ることは今後の世界を理解することにも繋がります。

そこで今回は特にこの言葉に馴染みの無い方向けに、「What is “software is eating the world?”」という解説をしていきたいと思います。

マーク・アンドリーセン

この「software is eating the world」という言葉を生み出したのは、シリコンバレーを代表するエンジニア兼投資家であるマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)です。

彼は1971年生まれで、イリノイ大学の在学中にWebブラウザのNCSA MosaicやNetscapeを開発し、23歳でIPOに成功し大富豪の仲間入りを果たしました。

また2009年にベン・ホロウィッツ(Ben Horowitz)と一緒にベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ(Andressen Horowitz,通称「a16z」)」を共同創始しました。a16zはシリコンバレー最大級のファンドであり、特に暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーン業界では圧倒的なプレゼンスを発揮しています。

このようにアンドリーセンはエンジニアとしても投資家としても一流であり、両面でシリコンバレーのトッププレイヤーであり続けているといえます。

Why Software Is Eating The World

アンドリーセンが2011年にウォール・ストリート・ジャーナルに発表したのが「Why Software Is Eating The World」と言う文章です。

原文はこちらです。

参考 Why Software Is Eating The WorldTHE WALL STREET JOURNAL

原文は英語でやや長いですが日本語の要約版を公開しているサイトもあります。

参考 インターネット:マーク・アンドリーセンの予測;Software is eating the world21世紀ラジオ 参考 インターネット:マーク・アンドリーセンの予測; Software is eating the worldSecond Opinion

 

「software is eating the world」とは「ソフトウェアが世界を飲み込んでいる」と訳されるわけですが、この言葉は「あらゆる産業はソフトウェアに代替される」ことを端的に示した言葉として有名になりました。

特にGAFA(Google,Amazon,Facebook,Apple)と呼称されるような巨大IT企業の勢いが日に日に増しつつあり、日常的にこれらの企業のサービスが浸透する今だからこそ、8年前に発されたこの言葉は現実となり、この言葉を強く認識させられることが増えています。

ソフトウェア産業の隆盛

1960年代に始まったコンピュータ産業の主流は本来ハードウェアであり、その対義語として登場したものが「ソフト」ウェアでした。このとき、ソフトウェアはあくまでもハードウェアの「付随品」「サポート」という位置付けに過ぎなかったのです。

しかしソフトウェアはそのコンポーネントの変更が非常に容易であることから、現在ではむしろハードウェアのアーキテクチャを規定するものとなりました。

日本の最大手シンクタンクである野村総合研究所(NRI)はこの具体例として、「アンバンドル化」と「サブスクリプション」をあげ、今後はアンバンドル+サブスクリプションに全てのソフトウェア産業は落とし込めるとの見通しを発表しています。

参考 software is eating the worldNRIパブリックマネジメントレビュー

アンバンドル化とはソフトウェアが変更容易であることを利用し、ハードウェアを一つ一つアンバンドリングして、組み直すことを指します。またサブスクリプションモデルにおいては、配布の限界費用はゼロであり、配布後の変更も容易であると言う性質を利用することで、近年ますますビジネスモデルとしての成長が見込まれています。

もちろんインターネット業界だけではなく、現実世界のものすらソフトウェアに代替され、「software is eating the world」となっています。物流を「ソフトウェアで飲み込んだ」Amazonがその代表例でしょう。

Amazonはボーダーズ社のデジタル書籍事業を買収し、現在のKindleを開発しました。本と言う現実世界のものすらデジタルに代替されているのが理解できます。

これについてアンドリーセンは、

ソフトウェアは一義的に物質世界にしか存在しえないと考えられていた業界のバリューチェーンの多くを軽々と再編してしまった。

と述べています。具体例として自動運転、ウォルマートやFedexのようなバリューチェーンのデジタル化を機に売上を伸ばした小売業・貿易業、Paypalの隆盛にみられる金融領域などがあり、特にアンドリーセンが着目しているのはヘルスケアと教育の分野です。

彼は「次の10年間」についてこのように述べています。

次の 10年間、既存勢力とソフトウェア装備された反乱者との間の戦いは壮絶なものになるだろう。「創造的破壊」という言葉を生み出した経済学者、シュンペーターがいたら、喜んだに違いない。

直面する課題

一方で直面している課題が無いわけではありません。「Why software is eating the world」の文章の最後でアンドリーセンは、ソフトウェアの新興企業は従来のIRをみるだけの企業価値の測り方ではその企業価値を適切に算定できないことなどを鑑み、

  1. 経済的不況
  2. ソフトウェアによる世界変革に必要となる、適切な教育を受けてきた人材の少なさ
  3. 正当に自分たちの価値を証明することの大変さ

を指摘しています。

 

今回はアンドリーセンの有名な言葉「software is eating the world」について、馴染みの無い人向けに簡単に解説を書きました。

アンドリーセンが懸念したような課題はいくつもあるものの、それでもなお彼の言葉はすでに現実のものとなっており、今後もさらにソフトウェア産業は隆盛を極めていくでしょう。トレンドの最先端を作っていくのがソフトウェア産業である、という現在から将来にかけての産業構造も理解できるかと思います。

アンドリーセンの創設したVC、a16zの公式サイトが提供する記事やコンテンツを確認するだけでも世界のトレンドをつかむことができるので、英語ですが興味のある人はぜひどうぞ。

参考 a16zの公式サイトAndressen Horowitz Official Homepage

彼のインタビュー記事がハーバード・ビジネス・レビューから出ており、Kindleで読むことができます。

a16zのサイトや彼の発言を併せて読むことで、少しでも今後の世界の姿を予測できるかと思います。

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