【書評】カンディンスキーの『点と線から面へ』

先日DMM.com ブロックチェーン研究室の篠原さん(Twitter:@shinanonozenji_)より、ロシアの抽象絵画の先駆者・カンディンスキーの古典的名著『点と線から面へ』をいただきました。ありがとうございました!

この本の著者、ヴァシリー・カンディンスキー(Wassily Kandinsky,1866年〜1944年)はロシア出身の画家で、元々はモスクワ大学で法律を勉強していましたが、絵画への興味を優先。ミュンヘンで象徴主義の大家シュトゥックに師事していました。芸術雑誌『青騎士』を結成したり、前衛芸術を嫌うスターリンとの不和を避けてドイツ、フランスで活動し、両国の国籍も保持していたようです。バウハウスで教員として色彩に関して学生に指導していたことが知られています。

そんなカンディンスキーはモンドリアン、マレーヴィチとならぶ「抽象絵画」の先駆者であり、代表作が「コンポジション」であることなどが特に知られているかと思います。

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彼が描いた『抽象絵画』とは、 具象画と異なり我々の目に見えないものを表現しており、彼自身の作品も自身の内面、精神を表現したものであるとされています。
そんな彼が自身の作品をつくるにあたっての内面を解説した古典的名著が「点と線から面へ」、というわけです。
また本著は単なる抽象絵画の形態論、色彩論に止まらず、音楽や彫刻に関する分析もされており、カンディンスキーが総合的な芸術論を確立させていこうとしていたことが伝わってきます。
そもそも彼の作品は対象物からの距離に応じて
  • 印象。外界から受ける直接的な印象。
  • 即興。内なる印象の無意識的な表現。
  • 構成(コンポジション)。抽象画の最高の形式で、現実との直接的関係はない。点と線からなる
に分類され、特にコンポジションこそが彼にとってのあらゆる創作活動の基礎になった、と言う見解が一般的なようです。
確かに「点と線から面へ」では終始この「コンポジション」に関する議論、より具体的には、科学的思考を用いて点、線、面(=「平面」)に対する絵画的現象を分析しようとした議論がされているように思いました。

点は本来静的なものですが、運動の軌跡が線になります。その過程で点は動的なものへと飛躍します。そして線がさらに運動して軌跡を描くことで、面(平面)が誕生する、というわけです。

ただこの中で、彼は線や面(平面)に色彩の概念を加えています。線に関しては水平線は冷たいものの垂直線は暖かいものである、という議論から出発しているのですが、そもそも「なぜ水平線が冷たく、垂直であるか」についての「科学的説明」がされていなかったので、彼の色彩と結合した線や平面に関する感覚を理解することができませんでした…(この点芸術に詳しい人はぜひ教えてくださると嬉しいです)。

この本は難易度が非常に高い上に抽象的で高次元の議論がされており、非常に難しかったです。しかしその後の芸術家に多大な影響を与え、20世紀の美術史を大きく動かしたカンディンスキーの思考を垣間見れる本ですから、抽象絵画に馴染みがない人にとっては作品に対する見方に深みを与えるものであることは間違い無いだろうな、と思いました。
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