【書評】『マーケットデザインー最先端の実用的な経済学』は最先端の経済学の面白さを実感できる本

先日DMMブロックチェーン研究室の篠原さん(Twitter:@shinanonozenji_)から坂井豊貴先生の『マーケットデザイン』をいただきました。ありがとうございました!

DMMは2019年2月に「試して学ぶ スマートコントラクト開発」という本を出版されているので、もしブロックチェーンを用いたアプリの開発に興味がある方は過去記事で書評を掲載しているのでご覧ください。

【書評】『試して学ぶ スマートコントラクト開発』はブロックチェーン学習に最適な実用書だった

さて、この『マーケットデザイン』ですが読んだ人皆が「すごくよかったよ!」と勧めてくれていた前評判通りに、経済学にあまり馴染みのない私にとってもとても読みやすく、かつ最先端のミクロ経済学の面白さの一端を感じ取ることができる良書でした。

簡単に内容をまとめつつ、書評を書いてみたいと思います。

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マーケットデザインとは

まず本書で一貫して述べられているのは「マーケットデザイン」になります。マーケットデザインとはその名の通り需給をいかにマッチングさせ、市場を創造していくかを考える最先端のミクロ経済学の一分野です。

本著の執筆者である坂井豊貴先生は慶應大学経済学部の准教授であり、マーケットデザインに関する著名な学者であり、本著以外にもマーケットデザインに関する書籍を複数出版しています。

また坂井先生は仮想通貨を取り巻く経済圏についても研究されており、先日「暗号通貨vs国家」という非常に野心的なタイトルの書籍が出版されています。

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多数ある坂井先生の出版物の中でも本著はもっとも初心者向けであり、堅苦しい専門用語や小難しい数式は一切登場しません。複数の図解を用いて身近にある例を多数取り上げているため、経済学を全然勉強したことがない人にとっては最適の入門書となっていました。

本の内容は1~3章に分かれ、「組み合わせ」「マッチング」「オークション」についてそれぞれ具体例をあげながらマーケットデザインの手法について解説しています。

第1章 交換に関する組み合わせ

第1章では腎臓移植を例にして、アルゴリズムの交換による組み合わせを解説しています。

多数のドナーと患者から適合性を考慮し、ペアを作り出す中で、鍵となるのが強コア配分です。

強コア配分は全ての組み合わせにおいて必ず存在し、しかもただ1つしか存在していません。強コア配分を実現することは、組み合わせの中から「抜け駆け」をする人がおらず、かつ個人合理性とパレート効率性をも満たしますが、参加者が増えていった場合に強コア配分を見つけ出すのは容易ではありません。これを解決したのがTTC(トップトレーディングサイクル)アルゴリズムです。

例えば7人の学生がそれぞれの住む寮の部屋を交換したい場合、7つの部屋全てについて各々がランク付けをします。そして住みたい部屋を指差し、指さされた1人〜数人でサイクルが完成している場合、彼らは部屋の交換が確定し7人の中から抜けます。これを残りの人で繰り返していくことで、全員にとって強コア配分が実現しており、耐戦略性を有していて安定的マッチングが可能になるアルゴリズムがTTCアルゴリズムです。

第1章では、腎臓移植や寮の部屋交換といった組み合わせを引き合いに出し、TTCアルゴリズムを図解しています。

第2章 マッチング理論

次の章では「両想い」を実現させるための経済活動を考えます。例えば大学生が志望のゼミに入りたい場合、想いを寄せる人と結婚したい男女が集まる結婚相談所、研修医と受け入れ先の病院といった例をあげてマッチングを最適に行うためのアルゴリズム、「受入保留方式」が解説されています。

例えば男女のマッチングで考える場合、男性がプロポーズしたい順に女性にランク付けをします。女性も同様に気に入った順に男性にランク付けをするとします。

そして男性が第一希望の女性に対してプロポーズする第一マッチングを行なったのちに、女性がすぐにマッチングを確定させるのではなく「仮保留」とした上で、第二希望のマッチングでプロポーズしてきた男性と仮保留の男性を比較した上でマッチングを確定させることが可能です。

この場合、男性にとっては安定的な配分が実現していますが女性にとってはそうではありません。(もし女性が男性にプロポーズする、という逆のシチュエーションを想定した場合では、女性にとっては安定的ですが男性にとってはそうではなくなります)。これを受入保留方式は片側耐戦略性を有している、と呼びます。

第3章 オークション理論

第3章ではオークションに関する解説がされています。ヤフーオークションや絵画、政府の公共事業など様々な場所でオークションは行われていますが、オークションがいかに有用な設計であるかを感じ取ることができるのではないでしょうか。

本章では繰り上げ式オークション・繰り下げ式オークション・第一価格オークション・第二価格オークション、といったオークションごとの性質に応じた分類を通して、オークションの財の配分を検討しています。繰り上げ式オークションと第一価格オークション、繰り下げ式オークションと第二価格オークションが戦略的同値である点や第二価格オークション(最高額の入札者が落札するが、支払額は二番目に高い額を支払うことになる形式)が耐戦略性を有している話などは、私たちの直感とは一見反しているようにみえ、「えっ?本当?」とつい思ってしまいますが、丁寧でわかりやすい本著の解説を読むことで徐々に納得いくものとなるでしょう。

 

今回は簡単に『マーケットデザインー最先端の実用的な経済学』についてまとめ、書評を書きました。本著では上にあげたもの以外にもさらに面白いエピソードがいくつも含まれており、220ページほどと薄めですので抵抗感なくすぐに読み切ることが出来ます。読み終えた暁には、末尾の「読書案内」に書いてある参考図書も読んでみよう!という気になることでしょう。

「経済学ってグラフが出てきたりして難しいし、実生活でどう役に立っているかわからないなあ」と思っている人にこそ本著はおすすめですので、ぜひ一度手にとってみてはいかがでしょうか?

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