先日Gunosyの創業者であり、現在はGunosyの子会社でブロックチェーン企業LayerXのCEO・福島さんがお書きになった本の『センスのいらない経営』を読んでみたので、書評を書きたいと思います。
本サイトでは、過去に福島さんが登壇されたイベントに関するレポートを公開しておりますので、よければこちらの関連記事もご覧ください。
関連記事:今後のブロックチェーンの活用領域について。業界のコアプレイヤーが考える分散型金融と権利の証明
普段私は自己啓発やビジネス書はあまり読まないのですが、LayerXの方々が本当に優秀なのと、福島さん自身が未踏スーパークリエイタに選出されているくらいのゴリゴリのエンジニアであることから本著に興味を持ち、手に取った次第です。
「センスのいらない」経営の意味とテクノロジー
まずこの本の内容全体を通して、最初から最後まで一貫したメッセージとして「テクノロジーの重要性」が主張されています。
その中でも機械学習が重要であり、機械学習のためのデータの集積やデータの分析の必要性、そして経営者としてこれらを意識する重要性などを主張するものです。
印象的なタイトルである「センスのいらない」とはすなわちテクノロジーに対する解像度を上げ、データ・ドリブンな経営を行うことの重要性を説いたものであるということになります。
ビジネスにおけるテクノロジーの意義として、社会環境を変容させ人間の意識よりも早く変化していく、つまりビジネスにおける競争環境をかえてしまう点にあると指摘しています。そのためテクノロジーを基軸にすえた戦略が必要になり、具体的には「テクノロジーの発達する順序で、それをどうビジネスに落とし込むか」考えていくことが重要であるようです。
もっとも、どの順でテクノロジーが進化するか予測することは不可欠です。しかし当該テクノロジーの変化の速さ、社会への普及の速さ、キャッシュフローの普及の速さなどの「速さ」に注目すればソフトウェアが主軸になることは確実であり、特に大量の情報を必要とする機械学習がメインとなっている現在においては
- データを集める→サービス向上→データがさらに集まる…という「データのネットワーク効果」
- キャッシュフローを早く回す→テクノロジーの研究開発に再投資→さらにキャッシュフローがまわる…という「R&Dのネットワーク効果」
があると福島さんは考えているようです。
人間にできて機械にできないこと
またもう一つのテクノロジーがビジネス環境を変えてしまう理由として、高い性能に加えて再現性がある点を指摘しています。この再現性というのは同じノウハウで誰でも実現可能であるということをさしていて、特に機械はデータに基づく予測は得意です。逆に機械が不得意なこともあり、機械学習の点で言えば不測の事態や極端な例を判定できないこと、また極めて指示に忠実であるため、正しい目的を人間がインプットする必要があります。
福島さんによれば、このように機械は人間の仕事の多くを代替してきましたが、人間には「知的労働と合意形成」という領域が残されています。
そのためこれからの経営では、福島さんによれば
- 特定の環境下で最適化されたビジネスモデルはテクノロジーにより陳腐化することを認識した上で、
- 何を機械に任せ、何を人間が行うかの線引きをすること
が大事であるそうです。
特に事業においてはオープンソースのツールなども活用しつつ、
- プロダクトを作る技術力や判断力
- ユーザーの課題解決のために技術を投入することについての意思決定力
また経営において、企業価値を最大化したいのであれば、
- それにインパクトを与える指標は何か
- 会社の強みは何で、事業のどこを自動化できるのか
と言ったことを分析して初めて機械を活用することができるでしょう。
ビジネスの根源と経営者
そして福島さんにとっては、ビジネスをする上でインセンティブを最大限に高めるためには社会的意義と自分のやりたいものの接地面を探すことが大事であるとのことで、いずれも充足していることが大事なそうです。
そしてそのために経営の方針としては市場が大きく「速い」分野、すなわち速くて大量のデータが集まるポジションを取るべきであるとし、具体的としてソフトウェア・広告の領域を挙げています。
経営者自身としても、
- 数字とデータを基にトライ&エラーを繰り返す必要性。ただし。データのノイズを排除するための施策は考えること
- スピード感をもって意思決定するための組織づくり
- テクノロジー×事業で、全ての事業でテクノロジーの活用を考える
- そのためにテクノロジーを理解し、エンジニア的思考を身につける
ことの必要性を説いています。
この本ではエンジニア出身の経営者が書いているだけあってかなりテクノロジー、特に機械学習の重要性が繰り返し書かれています。その点で今後のビジネスモデルを考えたい起業を志す方や、私のように「エンジニア出身の経営者が何を考えているのか知りたい」と思った方はぜひ一読をどうぞ。