【書評】『会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語』は一冊で会計と簿記が身につく良書。簿記初心者でも読めてオススメ。

昨日田中 靖浩氏による著書「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語」を読破したのですが、とても良い本でした。

私は実はかなりの簿記嫌いでして、大学2年から今年まで通算3回簿記3級の試験を申し込みしてはブッチを繰り返していた(!)ことがあるくらいです。その理由として、簿記の試験の参考書はいきなり難しい用語の説明があって用語の理解や背景の理解に頭が追いつかないことが大きかったのですが、この本では小難しい単語も数字も一切出てきません。むしろ歴史好きが多かったりする文系に親切な本だなと思うくらい、たくさんの歴史上のエピソードや偉人を関連付けた会計の本となっています。

というわけで、この本の書評とあらすじを少しばかり書いておきたいと思います。

簿記の由来は大航海時代のイタリア

まず、大航海時代に香辛料を東方貿易で売買していたイタリア商人が航海のために帳簿をつけ始めます。

イタリア商人は儲けの分配によって仲間割れを避けるために、毎日取引記録をつけて1年間の儲け(=フロー)と決算日に棚卸しをする(=ストック)ようになります。これが決算書の原型です。

大航海時代にはすでに紙が手軽に入手できるようになっていたこと、また「近代会計学の父」ルカ・パチョーリによる「スムマ」という数学の参考書で複式簿記が確率されていたことが背景にあります。

また、イタリアでは同時にイタリア商人の貿易を支援すべくBanco=銀行の原型が誕生し、為替手形を発行することで取引手数料を稼ぐようになります。その頂点とも言えるのがメディチ家で、薬売りから銀行へ転身しルネサンス期を支える大金融機関となりましたが、ガバナンスの欠如によって国王エドワード4世への多額の債権を不払いにされてしまい、破産してしまいました。

オランダー世界初の株式会社と市場取引財、証券取引所の登場

イタリアに代わって会計史に登場するのがオランダです。オランダは他宗教にも寛容であり、商売を是とするカルヴァン派を認めていることもあり商人がオランダにはたくさん集まるようになりました。彼らはアムステルダム中心の貿易業と海運業、今でいうAmazonのように物流の全てを抑えて盛んに交易していました。

人が集まる所には情報が集まります。するとこの情報を求めて市場が形成され、取引が始まります。その取引を求めてさらに人が集まります。このように市場の登場によって人々はさらにオランダに集まるようになりました。

このオランダで登場したのが市場取引財の登場です。『夜景』の作者である画家レンブラントの出身地としても知られるオランダですが、この絵画がルネサンス期のように「画家の描いたものが売れる」のではなく「市場が求める絵を画家が描くもの」としての性質を強めていきました。同様にチューリップバブルで知られるチューリップ、そして株式も市場取引財として有名です。

オランダでは世界初となる株式会社「東インド会社」が誕生しました。これまで会社の資本は自己資金が中心であり、ヴェネチアでは家族が、フィレンツェでは仲間が出資する形がメインでした。しかし事業拡大を目指したオランダではストレンジャー株主からも「株式」という形で資金調達を実施します。これがいわゆる「所有と経営の分離」で、東インド会社は投資家を満足させるために「儲けを帳簿によって記録し」「出資比率に応じて配分する」という形式によって会社を運営していきます。この際に投資家にとってのリスクを軽減するために有限責任を採用しました。

しかもオランダには証券取引所ができたため、配当によるインカムゲインか売却益によるキャピタルゲインか、投資家は利益を得る方法を選べるようになりました。ここにオランダの商業圏の盛り上がりは最高潮に達します。

しかし英蘭戦争、東インド会社の「ずさんな会計計算・報告=どの商品がどれだけ儲かっているか不明」「株主への配当が高すぎて、内部留保が不足した結果、会社の事業拡大が不可能に」「遠洋漁業にかかる不正や盗難へのチェックの不足」といった課題から徐々に衰退、イギリスが次の商業圏を形作ることになっていきました。

イギリスで登場した鉄道会社と「減価償却」「発生主義会計」

木材の不足から石炭をエネルギーとして用いていたイギリスでは、地下水をくみ上げるために蒸気機関が発明されました。この蒸気機関を転用しできたのが蒸気機関車であり、蒸気機関車は国防、産業の発展のために必要不可欠な交通機関となっていきます。結果蒸気機関車を運営する鉄道会社も増加していくのですが、固定資産が多くなってしまう鉄道会社にとっては開業したばかりの時は儲けが出にくく、投資時期によって株主への配当が異なってしまいます。これを解消するために登場したのが「減価償却」の概念であり、減価償却によって設備投資しても儲けを平準化して株主へ配当実施することが可能になりました。

これによって会計は「収入・支出の計算」すなわち現金の流れをおう現金主義会計から「収益−費用=利益」の発生主義会計へと移行します。

発生主義会計においては損益計算書とバランスシートが原因・結果の関係になり、損益計算書で出た利益がバランスシートの資産に該当します。

 

今回は近世の開始から近代の開始までの会計について、「会計の世界史」を元にまとめました。近代から現代に通じる会計については、続編の記事を公開しておりますので、ぜひご覧ください。

【書評】『会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語』は一冊で会計と簿記が身につく簿記初心者の味方。

また、この記事の元となっている「会計の世界史」ではレオナルド・ダ・ヴィンチやシェイクスピアと言った歴史上の偉人が登場し、さらに面白いエピソードがたくさん掲載されています。後半では会計の専門用語が登場してきますが、ビートルズやマッキンゼー、ペプシやダイムラー、ベンツといった有名企業のルーツも絡めて会計について砕いた説明がされており、ストレスなく読むことができます。私の書評ではネタバレ防止のために省きましたが、ぜひ本をお手にとって読んでみてください。