岩村充教授が語った、ブロックチェーンのコストと安全性。ビットコイン、仮想通貨、ブロックチェーンをどう見ているのか?

この記事は『岩村充教授が語った、ビットコインとハイエクの貨幣論。ビットコイン、仮想通貨、ブロックチェーンをどう見ているのか?』の続きです。もしまだお読みでない方はこちらからどうぞ!

ブロックチェーンは本当に「低コスト高セキュリティ」か?

しばしばブロックチェーンについて聞く言説に、「ブロックチェーンの分散型台帳技術によって、低コストで高いセキュリティが実現される」があると思います。

この点について、岩村先生は「技術者には安全で証明力が高いと思っていない人がはるかに多い」という点を指摘し、この「低コスト高セキュリティ神話」を否定していました。

個人的に「さすが岩村先生!」と思ったのはまさにこの点で、しばしばブロックチェーンの勉強を始めたばかりの人や、時にはブロックチェーン業界のビジネスサイドの人からすら「ブロックチェーンは管理コストを下げながら高いセキュリティで改ざんが防げる」と言っているのを聞くのですが、個人的にはこれは妥当ではないと思っています。

そもそも同一の情報が分散された台帳にあるとしてこれを確認するのははるかに手間がかかりますし、中央で管理するサーバが不要になるということは、各コンピュータごとにサーバを用意しなくてはならなくなります。現状ブロックチェーン業界の人ですら、分散性を犠牲にすることを承知でAWSを使用しているにもかかわらず、コンピュータ毎にサーバを用意するとなると、システムの性能に影響が出ることは必至です。

 

何よりパブリックチェーンには現在でも51%攻撃を受け続け、悪意のノードを排除できる仕組みが機能していないものがありますし、プライベートチェーンはコンソーシアムにしろプライベートにしろ管理者がいる。彼らがいつでも改ざんしようと思えばできてしまうわけで、「高セキュリティ」という言葉が指す意味について、考える必要がありそうです。

分散化を求める理由

 

ではなぜそれでも人々が分散化を望むのか?というと、ひとえに岩村先生によれば「バラバラで統制できないから」。すなわち、ブロックチェーンは分散化の思想を実現していますが、国家権力が統制できない仕組みがあること自体に魅力を感じる人たちがいるわけですね
日本ではあまり話題にならないかもしれませんが、国の発行する通貨がハイパーインフレになっていたり、国家が財政破綻・財政危機を経験したギリシャ・キプロスのような地域では、国家の通貨よりもビットコインなどの仮想通貨の方が信用がおけるわけです。

国家による追跡は可能か?

 

では国家は仮想通貨(暗号通貨)を追跡することができるのか?そして行政による強制執行による仮想通貨の差押えは可能なのか?というと、岩村先生としては「技術的には可能」。すなわち、ゼロ知識証明やハッシュ関数以外の暗号学の知識を総動員すれば、技術的には可能である。しかし国家による強制執行は政治学的・法学的観点から言えば国家による暴力行為なので、仮想通貨を作る人、運用する人、扱おうとする人の力を国家が上回るレベルの”暴力”を持たないといけないことになるはずです。となると本来暗号通貨を追跡し、無効にするためにはほどほどのコンピュータパワーを集めれば簡単にできるが、現状そのための合意が取れてない、というのが岩村先生の主張でした。
個人的には暗号通貨の追跡が可能、という意見は興味深く聴けましたし、強制執行の暴力性との観点も含めた考察はすごく画期的で腑に落ちました。
岩村先生のより詳しい主張は先生の著書に書いてありますので、みなさんもぜひ読んでみてください。興味深くて面白いし、ブロックチェーン好きな人やリテラシー高い人には刺さる内容ですよ。
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