【書評】『眼の誕生』は生命の進化と神秘を感じさせる名著だった

以前ギフトとしていただき、読むのを楽しみにしていた本『眼の誕生』を読み終わりました。

圧巻の筆致と緻密な論理構成に非常に感動しますし、これまでの生物の進化の歴史に対する自分の固定観念がひっくり返る、まさに「目から鱗」の本でもありました。間違いなく名著です。

今回はそんな名著である『眼の進化』に関して、簡単にあらすじと読んだ感想を書評として書いておきたいと思います。

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カンブリア爆発のきっかけとなった「眼の誕生」

本著は生物の眼の誕生こそが「カンブリア爆発」の原因であったとする「光スイッチ説」の提唱者であるアンドリュー・パーカーが、自説を様々なエビデンスを列挙して解き明かしていくものです。

一方で研究者ではなくあくまでも一般向けの本として出版されているため、読み物としての面白さを考慮して自身の研究者としての半生に関しても綴られており、ある意味では彼の自叙伝とも解釈できる本となっています。

「カンブリア爆発」とは何だったのか

著者アンドリュー・パーカーは、カンブリア爆発をこのように定義しています。

カンブリア爆発、すなわち5億4300万年前から5億3800万年前までに、現生する全ての動物門が、体を覆う硬い殻を突如として獲得した出来事なのである。…それと同時に、軟体性の蠕虫(ゼンチュウ)という原型から、個々の動物門に特徴的な複雑な形状(「表現型」ともいう)への変化が、地史的なタイムスケールからすると「またたくま」に起こったことなのだ。…

ここでいう「門」とは、生物が体内の設計を維持するための体内組成です。いわば枠のようなもので、突然変異などで生存が不可能になるほどのダメージを受けないよう門が設計されています。

これと比較すると、外部体制は割に大雑把であり、例えば触覚の長さが少し違ったからと言って生存不能になるほどのエラーは起こりません。

この「門」はカンブリア爆発の前から徐々に進化してきたものではありましたが、カンブリア爆発の4〜5000万年で現在存在する38の門(=内部体制、ボディプラン)全てに置いて急激に硬い殻を一斉に獲得した、というわけです。

これまでの学説と反証

このカンブリア爆発がなぜ起きたのかについては従来より様々な説が登場していました。しかしそのいずれについても反証が存在し、これまで確立された学説は打ち立てられてきませんでした。

例えば有名な「スノーボール・アース説(地球全体が氷に覆われた状態。全地球凍結)」に関しても、地球がスノーボール・アースとなっていた期間はカンブリア爆発から3200万年も前であることから、カンブリア爆発に直接的な影響があったとは考えにくいというのが筆者の意見です。

また同様にしばしば唱えられる「進化にまたとない好適な環境条件が揃っていた」という説についても、厳しい環境条件での生物の生育方法である「直接発生」が見られることからこれを一蹴しています。

このようにカンブリア爆発の原因に関する決定打が欠けている中で筆者アンドリュー・パーカーが唱えた仮説が眼の誕生に基づく「光スイッチ説」になります。

「眼の誕生」と三葉虫

筆者が唱える「光スイッチ説」とは、生物が太陽光線を視覚信号として本格的に利用し始めたことを指しています。

最初に眼を獲得した生物は三葉虫で、先カンブリア紀に三葉虫が光感受性を持つ部位が精度を増しユニットに別れていきました。光感受性のある皮膚の斑点こそが眼の起源であるわけです。

そして個別のユニットの神経の増加に伴い、脳細胞も増加。ユニットの覆いが膨らみ、集光力を持つようになることで、三葉虫には複眼が誕生したのです。

また三葉虫は初の捕食者でもありました。視覚を獲得した捕食者である三葉虫が活発化するのに対して、他生物は「外骨格の形成」という形で適応、捕食から免れようとしたのです。すなわち、光が淘汰圧となっていることにも焦点が当たっているのが、この「光スイッチ説」になります。

解決されない謎

このような「光スイッチ説」は非常に説得力を持っているように見える仮説ですが、解決されない謎もあります。

というのも本著の最終章において、アンドリュー・パーカーは「ではなぜ眼が誕生するに至ったのか」という根本原因については謎のままであると述べています。仮説をいくつかあげているものの、未だ確定的なものではなく、今後の研究に判断が委ねられているように思われます。

今回はアンドリュー・パーカー氏による気鋭の書、『眼の誕生』についての書評を書きました。

本著は上記のメインストーリーの他にも、各章ごとに様々な生物の特徴や生物学の研究についてのエピソードが語られており、純粋な読み物としての面白さがあります。

またカンブリア紀の生物に関する様々な挿絵や画像が多分に含まれているのも特色です。挿入されたイラストを通して、我々は想像するしかなかった生物について、より実感のこもったイメージをすることができます。

 

教養のためにも読んでおいて損はない一冊だと思いますので、みなさんぜひ読んでみてはいかがでしょうか?

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