中国が考える、メタバースと国家戦略・安全保障の関係性に関してー中国現代国際関係研究院(CICIR)レポートの翻訳と解説

2021年10月31日、中国国内の主要なシンクタンクの1つである中国現代国際関係研究院(CICIR)が、「メタバースと国家安全保障」というタイトルの報告書を公開しました。

中国現代国際関係研究院(CICIR)は、長年にわたり国際戦略と安全保障問題の研究に取り組んでいる、中国国内でも最も大きな民間シンクタンクの一つです、15の研究機関と13の研究センターを持ち、『现代国际关系』(中国語で発行する中核雑誌)、『现代国际关系』(英語版)、《国际研究参考》の3つの学術誌を主催・発行しています。

原文はこちら

本報告書では、中国が考えるメタバースの構造と応用領域、また企業と政治の関係、日本・韓国・米国・欧州の規制、安全保障への影響について非常に広範でかつ詳細にまとめられており、完成度が高いものでした。過去に初心者向け仮想通貨解説記事や仮想通貨 規制の記事のように、仮想通貨の各国の法規制を研究し、本サイトにて公開していたことがある私にとっては、非常に興味深く感じられたため、ぜひ日本語でより多くの人にも内容を知ってもらいたいなと思い、今回翻訳してみることにしました。

せっかくですので、必要に応じて注を入れてみました。また直訳では意味の通らない箇所や、専門用語に関して、原文の意図を損ねないよう配慮しながら意訳している箇所がありますので、その旨ご理解ください。

中国現代国際関係研究院(CICIR)『メタバースと国家安全保障』

最近では、インターネットの新しい概念としてのメタバースが注目されつつあります。 メタバースという新しい概念は、各界から様々な解釈がなされていて、メタバースがインターネットの未来の形の一つとなり、今日のデジタル経済のエコシステムを再構築し、経済や社会に多大な影響を与える可能性が示唆されています。 経済的な変化としては、メタバースは国家安全保障の分野にも影響を与えることが予想されています。 本稿では、メタバースの技術的基盤とドライブファクター(訳者注:何がメタバースを推進している要素となっているのか)について考察し、このコンセプトに関する政府と産業界の見解を組み合わせ、国家安全保障への影響を検討しています。

1. メタバースの技術的基盤とドライブファクター

 

メタバースとは、小説家のNeal Stephensonが1992年に発表したSF小説「Snow Crash」で提唱した概念です。 この小説では、現実の人間が、VR(VR)機器を介して、アバターとともにメタバースと呼ばれる仮想空間で生活しています。 メタバースとは、文字通り「メタ(meta)」と「ユニバース(universe)」を組み合わせた言葉で、テクノロジーの力によって、現実世界をベースとした完全な価値体系とクローズドな経済圏を有する仮想世界―すなわち、メタバースとは仮想世界を主なプラットフォームとしつつ、現実世界と仮想世界が融合した空間のことと解釈できます。

メタバースは、次世代のインターネット・エコシステムのモデルとなる可能性があると考えられています。

メタバースには3つの特徴があります。

1つ目として、現実世界のユーザーが仮想世界、仮想デバイス、仮想ユーザーと同じ空間で交流することで、メタバース下においてはユーザーはより良いシナリオの体験ができます。

2つ目として、その世界での交流のプロセスがそのまま保持され、完全に再現可能です。

3つ目は、仮想世界のデバイスや製品、サービスにははっきりと価値があり、永遠に保存しておくことができます。 これにより、仮想世界と現実世界の境界がより曖昧になり、仮想世界は、高度なコミュニケーション、永久保存性、パノラマ再現性、高い没入感など、現実世界では実現できない機能や体験を持つこともあり、結果現実世界の時間と空間の概念が一定程度変化してきています。

今このタイミングでメタバースの概念が台頭してきた背景には、3つの重要な要因があります。

1つ目は、技術の成熟度がますます加速していることにあります。メタバース機能の実現には、複数の最先端技術の大いなる発展と応用が必要で、現時点では複数の最先端技術の超複合体であり、先端技術が閉鎖的なループ全体を埋め尽くしています。 例えば、コンテンツ制作には人工知能とデジタルツイン技術を、保存と認証の仕組みにはブロックチェーン技術を、データ処理には人工知能とクラウドコンピューティングとクラウドストレージ技術を、ネットワーク環境に5G技術を、仮想現実とのインタラクションとコネクティビティには人間の知覚、3Dレンダリング、AR、ブレイン・コンピュータ・インターフェース、ウェアラブル、ロボティクス技術を使用しています。 これらの技術はいずれも現在急速に発展している段階であり、5G、XRの技術も近い将来急速に普及し、適用される可能性が高いため、メタバースは現在、実現のための初期基盤を持っていると言えます。 中でも、通信における5G、ユーザー体験におけるARやVR、大規模なメタバース生成・レンダリングにおける人工知能、メタバースのユーザーインタラクションにおけるウェアラブルやブレイン・コンピューター・インターフェース、メタバースの価値確認におけるブロックチェーンなどが重要な役割を果たしており、これらの技術はいずれも現在急速に発展している状態です。 今後、これらをはじめとする最先端のデジタル技術がメタバースに導入されることで、メタバースの構築・運用コストはさらに低下し、利用体験も徐々に向上して、メタバースの活用が加速する傾向にあると考えられます。

2つ目は、デジタル経済の反復とアダプションの必要性です。 インターネットは、サイバー空間やデジタル経済を生み出し、現実世界とは異なる次元と空間を作り出しています。 デジタル経済には独自の発展パターンがありますが、その中でも2つの特徴があります。

①技術の進歩による反復の必要性、つまりデジタル技術の反復とアップグレードにより、デジタル経済全体が反復されること

より効率的な通信技術やコンピューティング技術により、開発者はデジタル空間にさらに多くの機能やアプリケーションを実装できるようになり、既存のデジタルサービスは徐々に置き換えられていくでしょう。 例えば、ダイヤルアップネットワークの時代には、ポータルやウェブフォーラム、電子メールシステムなどの単純なウェブサービスを中心に展開することしかできず、電子空間のエコシステム全体が分断されていました。 ブロードバンド時代には、オンラインの動画、写真、ゲーム、データベースなどの新しいアプリケーションに活躍の場が与えられ、また、情報量が膨大にわたることにより、ユーザーの検索エンジンやウェブコンテンツアグリゲーションツールへの要求も高まりました。
モバイル・インターネットは、デジタル経済をファイバー・電力の制約からさらに解放しました。モバイル・ネットワーク端末は、スマートフォンやラップトップなどの新しいデジタル製品の需要をもたらし、モバイル・アプリケーション(アプリ)、ソーシャルメディア、クラウド・サービス、写真やビデオのソーシャル・ネットワークなどの新しいアプリケーションを生みだしました。 現在5Gをはじめとする新世代の通信技術や、コンピューティング技術、ディスプレイ技術の目覚ましい進歩により、新たなデジタル経済やデジタルアプリケーションが生まれており、メタバースは新たなエコロジーやアプリケーションを載せるためのプラットフォームになると考えられています。

コインチェック

 

②利益ドリブンでの浸透を求める声

技術の進歩と相まって、利益は、デジタルエコシステムの原動力となります。 デジタル経済の開発者は、新たなユーザーやユーザー・ニーズを創造する必要があり、ユーザーは実生活では困難な目標を達成するためにデジタル経済を利用したいと考えています。 そのため、デジタルエコシステムの開発者たちは、常に新技術を活用して、デジタルエコシステムの浸透度合いをより広く・より深くしようとしています。

現在デジタルエコシステムの浸透は、ユーザーの指先(訳者注:スマートフォンを指でタップすることから来る表現)にまで達していますが、日常生活を完全に支配するには至っていません。 開発者は、さらにアダプションさせるための新たな方法を模索する必要がありますが、VRとARを組み合わせたウェアラブル・デバイスは、理想的な方向性と言えるかもしれません。 メタバースは、デジタルエコシステムが持つ、反復とアダプションというダイナミクスと概念的に一致しています。 イノベーション層のさらなる没頭は、メタバースの顕著な強みです。 現在のデジタル経済では、イノベーションの主体は主に企業ですが、メタバースでは、ユーザーはアイデアの消費者であると同時に生産者でもあり、イノベーションの多様化が促されます。

 

3つ目は、リアルな世界とバーチャルな世界の融合が求められていることです。 情報技術革命の新しいフェーズでは、デジタル技術と現実世界との統合がより深くなっています。 例えば、インダストリアル・インターネットやモノのインターネットといった技術は、生産設備や工場をデジタル技術で制御することを重視し、スマートシティは都市の統治や管理のインテリジェンス化を推進し、人工知能は自動運転や翻訳などといった、ユーザーのニーズを直接データやアルゴリズム製品に変換するデジタルアシスタンスサービスを提供しています。

このような現実世界と仮想世界の融合のプロセスは現在も進行中で、今後は大きく分けて2つの方向性が考えられます。
1つは、IoTデバイスが実世界に完全に組み込まれている「モノのインターネット」をベースにしたものです。 この方向性を実現するには、現実世界を完全にデジタル化する必要がありますが、これにはコストがかかり、形になるまでのリードタイムも長くなります。
もう一つの方向性は、VR、拡張現実技術、ブレイン・コンピュータ・インターフェースをベースにしたもので、やはりユーザー中心に新世代の情報技術によって人々をエンパワメントしていき、デジタルプラットフォームを通じて、世界を知覚したりリンクしたりする能力を高めるものです。 メタバースは後者の方向性のひとつです。 メタバースは、現実のソーシャルエコシステムと仮想のソーシャルエコシステムの高度な統合を可能にし、2つの時空間の統合を低コストで実現します。

メタバースとは、バーチャルとリアルを包括的に織り交ぜた概念です。 メタバースでは、バーチャルとリアルの区別がなくなり、現実世界のすべてがメタバース社会に反映され、メタバース内のバーチャルなものも現実に影響を与えることができます。 メタバースは、現実の経済を仮想の経済に置き換えるのではなく、現実の経済を物質的な基盤とし、仮想の次元から新たなダイナミズムを与えるものです。 一方で、メタバースは現実世界と並行して存在する「現実世界」となり、両者は平行して存在しています。 メタバースは現実の生活に取って代わることはできませんが、人間の存在のための第二の空間となり、別の次元での新しい生活を提供し、第二のアイデンティティ、二軸の社会的関係、理想的なライフスタイルを持つ新しい社会的次元を生み出します。 この特徴により、メタバースでは、ルール、秩序、法律、仮想労働、犯罪への入れ込み、現実と仮想の混同、経済犯罪など、規制が必要な現実と仮想の間のグレーゾーンも発生します。

ブレイン・コンピューター・インターフェース、VRによる運転学習、ARグラスなど、メタバースの初期の応用例

2.メタバースの現段階での応用・発展のフェーズについて

メタバースはまだ開発の初期段階にあり、主に既存のデジタルサービスやデジタル経済にメタバースのコンセプトを接ぎ木して、いくつかの探索的なアプリケーションや製品を作ろうとしています。

現在、メタバースの応用分野として最も注目されているのが、オンラインゲームです。 従来のゲームは、一定のシナリオ、一定のゲームルールの下で、競争、アップグレード、ストーリーの展開、推理、謎解きなど、決められた課題をクリアしていく「方向性のあるゲーム」が主流で、プレイヤーとのインタラクションがあったとしても、その中心は課題のクリアにつながるものでした。 しかし「メタバース」のアーキテクチャに重点を置いたゲームは、高いインタラクティブ性と自由度に重点を置いた「拡散型ゲーム」です。つまり、ゲーム世界の基本的なルールのみを設計し、クエストやゲームプレイ、ソーシャルインタラクションを規定しないことで、どんなプレイヤーでもどんなプレイヤーでも相当程度の自由を実現できるようにしています

1979年のMUDやMUSHesから2003年のSecond Life、2004年に発売されたWorld of Warcraft、2016年のPokemon GOなど、いずれもある程度のメタバース的な要素を持ち、ユーザーの自由度を広げたり、拡張現実技術を使って現実世界との融合を試みたりし続けています。 世界の変容、経済取引、オープンスペースなど、もともと現実世界の一部であった活動や要素が、より多くのバーチャルゲームに適用され、現在のオンラインゲームの「基本条件」となっています。 以下の3つのゲームは、これまでに成功した「メタバース」ゲームの一部であり、将来の「メタバース」システムの開発に参考となるアプリケーションモデルを示しています。

1つ目が、「MineCraft」。 このゲームは、複数のコンソールでのサーバーの相互接続をサポートしており、最大かつ最も自由な「メタバース」ゲームの一つです。 このゲームの特徴は、ユーザーがゲーム内のクエストにほぼ制限されない自由度の高さと、「サバイバル」「クリエイティブ」「アドベンチャー」の3つのモードがあり、それぞれ一人称視点、神の視点、三人称視点でゲームを楽しむことができます。 発売から10年で2億3,800万本を売り上げ、月間アクティブユーザー数は1億4,000万人を超え、史上最も売れたビデオゲームとなっています。

2つ目は、「Roblox」。 これは膨大な数のゲームライブラリを持つゲームプラットフォームで、ユーザーが自分でゲームを作ることに大きく依存しており、プラットフォームはゲーム開発者に報酬を与えています。 これらのゲームは、伝統的なゲームから自由度の高い没入感のあるゲームまで、また、無料で遊べるものから有料のものまで、さまざまなジャンルで制作されています。 ユーザーは、仮想通貨「Robux」を使って仮想アイテムを取引し、それを物理的な通貨に交換することができます。 プラットフォーム上のゲーム数は現在2,000万を超え、現在も順調に増加しています。 北米では、同国の16歳以下の約半数がプレイヤーであるほどの人気があり、ゲームを作ったり売ったりして収入を得ている人も多く、中にはこのゲーム沼に沈みこんだ人もいます。 米国の株式市場に上場して1年足らずで、時価総額は460億米ドルを超えています。

3つ目は、「どうぶつの森」。 「生活シミュレーション」と称するこのゲームは、極めて自由度が高く、プレイヤーは「無制限のソーシャル・インタラクション」を行い、仮想環境や仮想オブジェクトを構築・作成して、現実世界のシナリオやイベントを「再現」することができます。例として「試験対策レクチャー」や「LSATレクチャー」、「心理カウンセリング」「年次会社総会」があります。
また、2020年に発売された「あつまれ どうぶつの森」を含め、シリーズ全体の累計販売本数が5,000万本を超え、歴代のベストセラーゲームのトップ10に入っています。 2020年の「あつまれ どうぶつの森」は、1年間で3400万本近くの売り上げを記録したこともあります。

オーディオビジュアル製品や、拡張現実感のある仮想空間は、メタバースの次のアプリケーションの方向性です。 現在のメタバースのアプリケーションは、電子機器と人間の感覚との統合や、オンラインでのインタラクティブな没入体験といった深みには程遠いものですが、このような機能を求める声は古くからあり、一連のSFアート作品を通して示されてきました。『アバター』や『サロゲート』などの映画では、人間が現実の人間のように見える「バーチャル身代わり」を操作することが描かれていますが、2018年の『レディプレイヤー1』では、人間が仮想ネットワークに完全に感覚的に没入することが、「メタバース」の究極の形として捉えられています。

AR技術が進化していく中で、「メタバース」との融合はトレンドになっています。AR技術ではリアルな感覚を体験でき、「メタバース」では最強のインタラクティビティとリアルタイム性を表現しています。この2つの組み合わせを極端にすると、映画「トップガン」の「オアシス」のように、人間がインターネットを使って「メタバース」の中で新たな「第2の人生」を実現することになります。

また、メタバースは既存のオンラインサービスと組み合わせることで、没入感を高めることができます。 例えば、Facebookは2021年8月に「Horizon Workrooms」というVR会議ソフトを発売しました。 このソフトウェアは、同社のVRデバイス「Oculus headset」を使って、ジェスチャー操作で資料を提示したり、資料を交換したりして、複数人での同時会議を可能にします。 Facebookは、Horizon Workroomsが出席者を漫画のような画像を持つ3Dの「アバター」に変身させる一方で、このプラットフォームがより没入感のある会議体験を可能にすると考えています。

一般的に、現在のメタバースでは、変革性の高いアプリケーションや製品は生まれておらず、このコンセプトを利用した製品は、従来の製品とは根本的に異なるものではありません。 しかし、技術のコストが下がり、ユーザーが増えれば、5~10年後には爆発的に普及する可能性があります。 メタバースの開発は、他のデジタル経済と同様に、3つの主要な段階を経て進められます

第一段階では、新しいコンセプトと既存のデバイスをベースに、新しいシナリオとアプリケーションを作成します。 メタバース機能を備えた人気のオンラインゲームは、このフェーズの産物です。 いったんヒット商品が生まれれば、業界はこの分野への投資を増やし、より高度で没入感のある製品やサービスの開発につながります。

第2段階は、新しいシナリオと新しいデバイスの共進化です。 これまでもそうであったように、デジタルエコシステムに大きな影響を与えた製品やデバイスは、既存のデバイスを完全に破壊することから始まったのではなく、既存のデバイスに追加・統合することから始まっています。 これらの新機能は、通常、少数のユーザーの特定のニーズから生まれますが、より多くのユーザーが使用することで、新たなシナリオが生まれる可能性があります。 メタバース空間では、拡張現実と仮想現実のデバイスが、メタバースのさらなる発展と浸透のための重要なデバイスの依存関係となります。

第3段階は、アプリケーションと需要の爆発的な増加により、メタバースがエンターテインメント、ソーシャルインタラクション、ビジネスモデル、インフラのあり方を徐々に変えていくことです。 デジタル・エコシステムにおけるメタバースの反復的な役割は、メタバース・アプリケーションに対する需要が指数関数的に増加した後に、徐々に明らかになるでしょう。 この間、メタバースは、スマートフォンやソーシャルメディアのように、エンタテインメントのあり方や社会性、ビジネスモデルに大きな影響を与え、新たなビジネスモデルを生み出し、最終的にはメタバースを支えるインフラのアップグレードを促すことになるでしょう。

新型コロナウイルス感染症の流行は、メタバースの生成から成熟までの歩みを著しく加速させました。 この大惨事により、世界のオンライン人口の規模、オンライン経済の規模、一人当たりのオンライン利用時間が大幅に増加しました。 オンライン上の仮想世界は、その機能を強化し続け、現実世界にまで接近し、「仮想現実」が双方向に徐々に開放され、生産要素の流れができてきつつあります。

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メタバースに関連するハードウェアも急速な発展の段階に入っており、その重要な端末インフラであるVRディスプレイハードウェアの規模は200億ドル近くに達しており、2021年第1四半期のVRヘッドセット機器の世界出荷台数は前年同期比52%増、今後5年間の複合年間平均成長率は39%に達すると言われています。2021年9月には、Facebookがメタバースプロジェクトに5,000万ドルを投資し、パートナーと手を取り合って責任をもってメタバースを構築することを発表しました。NVIDIA、Google、Tencentなどのテクノロジー企業も「メタバース」に進出しています。

IDCによると、世界のバーチャルリアリティ産業は、2020年から2024年の間に54%のCAGRで成長するといい、新しい技術が次々と開発される中で、バーチャルリアリティ・メタバースに関連する業界は爆発的な発展を遂げるかもしれません。

3.メタバースに対する産業界と政府の見解

メタバースに対する産業界と政府の見解は、互いに異なる次元とロジックに基づいています

産業界では、メタバースを新たな成長点、そして産業競争の次の戦略分野と捉えています。 メタバースの開発プロセスは、世界のテクノロジー産業に新たな変化をもたらすでしょう。この業界が将来のデジタル経済の支配的なモデルになると、参入が間に合わなかった企業やイノベーション・グループは、淘汰されるか、それと同じ状況に置かれることになります。 歴史的に見ても、パソコンがIBMなどの大手コンピュータメーカーの地位を低下させたこと、ソーシャルメディアがFacebookやTencentなどの企業を生み出した一方で、Yahooなどのポータルサイトの影響力を低下させたこと、モバイルアプリのプラットフォームがGoogleやAppleに利益をもたらした一方で、Microsoftやadobeなどの伝統的なソフトウェア企業が苦境に立たされたことなど、同じような状況がデジタル経済の中で何度も起こっています。 メタバースも同様の結果をもたらす可能性があるため、自社の開発モデルがメタバースに近似している企業は変革プロセスを開始し、他の企業は移行のコストを検討しているところです。

フェイスブックは、メタバースの変革に最も力を入れている企業のひとつです。 現地時間10月28日、Facebookは親会社の名称を正式に変更したことを発表しました。”Metaverse “の接頭語である “Meta “は、すべてを網羅する、すべてを繋ぐという意味があります。 2021年3月、Robloxは株式を公開し、時価総額が400億米ドルを超える「メタバースのナンバーワン銘柄」となりました。 EpicGames社もメタバースのコンセプトで10億ドルの資金を調達しています。 また、米国シリコンバレーの大手企業もメタバース分野で競合しています。 Microsoft社のCEOであるSatya Nadella氏は、同社が「エンタープライズ・メタバース」の構築に取り組んでいると述べています。 グラフィックスチップメーカーのNvidia社は、世界初のメタバース用基本シミュレーションプラットフォームを発表し、メタバースビジネスの立ち上げを加速させています。 アップルは昨年、VRスタートアップのNextVRを買収し、メタバースの重要なハードウェア分野に参入しました。

また、米国企業は、米国政府に対して、メタバースの認知度を高め、競争やイノベーションに有利な環境を形成し、米国関連の産業が世界的に際立った存在になるように働きかけたいと考えています。 フェイスブックに代表されるジャイアントテックは、現在、包括的なメタバースの「政治戦略」を推進しており、「責任ある」方法でメタバースマップを構築するために、米国の政策立案者、学者、パートナー、専門家と積極的に交渉して「責任ある」方法でメタバースの世界を構築し、メタバースの仮想世界の基準やプロトコルを作成し、新興のインターネット形態に対するテックジャイアンツの自主規制モデルを形成しようとしており、テックジャイアンツが政府の信頼を回復するための共同プラットフォームとなることが期待されています。

メタバースの同様の概念的要素は、日本では2007年には早くも生じており、国内では様々なマルチバースコンテンツ企業が登場し、VRやARコンテンツを制作する企業が中心となっています。例えば、VRゲーム企業のThirdverseは、マルチプレイヤーVRゲームの開発に注力するとともに、VRとブロックチェーンを組み合わせたメタバースの構築を提案し、2,000万米ドルの資金を獲得しています。 一方、日本のSNS大手のグリーも、2024年までに100億円を投じて、全世界で1億人以上のユーザーを開拓し、最終的にはライブストリーミングプラットフォーム「REALITY」をメタバース化することを目的としたメタバース事業を発表しています。 また、日本では、企業レベルのオンラインイベント会場や、アバターを使ってリアルタイムにコミュニケーションできるプロモーションキャンペーンのプラットフォームなどが登場しており、メタバースに関連する要素がすでに備わっています。 政府は新興産業の状況に注目しています。

 

各国政府は、このコンセプトを別の視点から見ているかもしれません。 メタバース産業の発展にはまだ大きな変化があるため、この産業の潜在的な商業的利益を追求することは、政府にとって優先事項ではありません。 この種のフロンティア産業の場合、政府はメタバースが国家間競争に与える戦略的な影響や、国内の政治的・社会的領域に対する潜在的なリスクをより懸念しています。

第一に、政府は、メタバースが将来のデジタル・エコシステムの支配的なモデルとなった場合、新しい国際的な分業体制が生まれ、それに見合ったレバレッジと競争力を持たない国は、この新しいシステムの中で不利な立場に置かれ、疎外される可能性があると考えています

韓国や日本は、メタバースに対する危機感を強く持っている国です。 現在、韓国ではユーザーグループからプラットフォーム構築者まで、メタバースブームが起きています。 この分野では政府と企業が協力しています。 SK Telecom、Hyundai Motor、Korea Mobile Internet Business Associationなど、国内の業界団体や業界リーダーが「Meta-Universe Alliance」を結成しました。 政府主導のこのアライアンスには、すでに200以上の企業や団体が参加しており、メタバースレベルでの倫理的・文化的実践についての協力、技術動向や洞察の共有、共同開発プロジェクトの立ち上げなどを行っていきます。 また、サムスンなどの大企業は、6月にはメタバースファンドを立ち上げ、大きな反響を呼んでおり、年内に1000億ウォンの調達目標を達成する見込みです。

日本の経済産業省が今年7月に発表した「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書」では、メタバースを「多人数が参加可能で、参加者がアバターを操作して自由に行動でき、他の参加者と交流できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間」と定義しています。 報告書では、業界はユーザー層を一般消費者にまで広げるべきであり、具体的には、VR機器の価格やVR体験の敷居を下げ、高品質なVRコンテンツを開発してユーザーを囲い込むべきだと主張しています。第二に、政府は「仮想空間」における法的問題の防止と解決に注力し、クロスボーダーおよびクロスプラットフォームビジネスへの法律の適用を改善すべきであるとし、第三に、政府は業界と協力して業界標準やガイドラインを作成し、そのような規範を世界に輸出するべきであるとしています。これらの提言は、メタバース産業の位置づけに関する日本政府の考え方を反映したものです。

欧州ではこれまで、メタバースに関する法律や規制を直接は推進していませんが、最近の欧州の法律上の取り組みを見ると、規制当局がメタバースを扱う際の立場や方向性がよく理解できます。

EUは最近、将来のメタバースの重要な基盤となる分野である人工知能に関する法律案を作成し、この新興技術が主流になる前に規制を導入しようとしています。 欧州AI規制法案と呼ばれるこの提案では、AIシステムに存在しうるリスクを①禁止②高リスク③限定的なリスク④再証言のリスクの4つに分類し、それぞれのカテゴリーに対する処置を定めています。

この法律は、欧州市場のサプライヤー、欧州におけるAIシステムのユーザー、システムのアウトプット内容が欧州に存在している第三国のサプライヤーとユーザー、という幅広いグループに適用されます。 同法は現在、通常の立法手続きを経て欧州議会と加盟国に提出されており、最終的に採択・可決されれば、すべてのEU加盟国で直接適用されることになります。

その他の関連する法律上の措置としては、Platform-to-Business Regulation、Digital Services Act (DSA)、Digital Marketplace Actなどがあります。 これらの立法措置は、メタバースを含むデジタルサービスプロバイダーやプラットフォーム事業者に対し、透明性の向上、ユーザーの選択の尊重、プライバシーの厳格な保護、ユーザーにとってリスクの高い可能性のある特定のアプリケーションの制限を求めています。

これらの法案は、EUがメタバースの規制やルールの問題に一層注力することを予告するものであり、ガバナンスやルールの面で先手を打つことで、欧州の域内市場を保護し、ルール交渉を通じて各国の利益を守ることを目的としています。 ヨーロッパは、メタバースに最も強い法的制約を与える政治的地域になるかもしれません。 この市場で活動するために、フェイスブックは事前準備を行い、ヨーロッパで1万人のメタバース関連の雇用を創出することを発表しました。 今回の決定の背景には、インターネットの新しいルールを形成する上でのEUの重要な役割と役割があるとしています。

4.メタバースの国家安全保障への影響

とはいえ、メタバースはまだ発展途上であり、今後のデジタル経済の主流モデルとなるかどうかは未知数です。 しかし、メタバースの技術的特徴と発展の形態は、当初、国家安全保障上の潜在的な影響を明らかにしました。 最先端の技術が統合された新興のデジタル経済としてのメタバースの意義は、国家安全保障という文脈で主に3つの次元を反映しています。

①技術的覇権の次元

これまでのフロンティアテクノロジーやデジタル経済と同様に、メタバースもまた、世界中で開発や適用のペースが非常に不均一であることが予想されます。 既存の技術レベル、国内市場、ユーザーグループ、デジタル経済、産業チェーン、イノベーション環境がメタバースの発展に適している国もあれば、主観的な要因や客観的な制約のために遅れをとる国もあります。 国家間の開発格差は、現時点では明らかではありませんが、時間の経過とともに拡大していくでしょう。 このギャップは、3つの分野で影響を及ぼします。 1つは、開発が遅れている国は、開発先進国のメタバースへのアクセスを求める際に不利になり、差別的な基準や要件に直面する可能性があることです。 第二に、開発が遅れている国では、メタバース関連の技術やインダストリーチェーンに欠点やギャップがあり、自力でキャッチアップしようとしても、その過程で高いコストを負担したり、他国の技術や規格への依存度を高めたりしなければならない可能性があります。 第三に、国によってメタバースに対する考え方や立場、規制のアプローチに大きな違いがあり、デジタル経済の発展モデルやデジタル経済、産業チェーンが国によって「二分化」され、相互に断絶したシステムになっている可能性があります。
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②技術的安全性の次元

デジタル技術やデジタル経済におけるセキュリティ問題やセキュリティリスクは、事前に発見することが困難な場合が多いのですが、メタバースにおけるセキュリティリスクは、多くの情報技術が統合されているため、より顕著で、より多面的なものになっている可能性があります。 統合される技術の観点から、メタバースは以下のような技術的なセキュリティ問題に直面する可能性が高いでしょう。

①サイバー攻撃

デジタル経済の主な脅威であり、メタバースもこの危険性から逃れることはできません。 サイバー攻撃は、メタバースのエンドユーザーとデバイスのエンドポイント、およびメタバースの運営者や主要サービスプロバイダーの両方を標的にする可能性が高いです。 メタバースがもたらす仮想世界と現実世界の融合は、サイバー攻撃をさらに危険なものにし、国や特定のグループにシステム的な影響を与える可能性があります。

②技術的なセキュリティ上の欠陥

メタバースで採用されている技術統合モデルでは、設計上の欠陥や脆弱性が含まれる可能性が高くなります。 これらの脆弱性は、サイバー攻撃者に悪用される可能性があり、また、システム自体の動作を停止させる可能性もあります。 メタバースでは、オンライン情報の永続的な保存とシステムの完全性を実現しようとするため、システムのアップグレードや修正にかかる全体的なコストは、現在のデジタルエコシステムよりもはるかに大きくなります。 何年も経ってから欠陥が発見され、改善される可能性もあるでしょう。

③重要なインフラ

メタバースでは、新たな重要インフラが生成され、攻撃を受けたり故障したりした場合、予想を超えた影響や社会的波及効果をもたらす可能性があります。 例えば、メタバース内の取引市場や情報蓄積システムに障害が発生した場合、メタバース全体の価値が著しく低下し、莫大な経済的損失が発生します。 ④いたずら、盗難、大規模な漏洩
メタバースの設計者は、ブロックチェーン技術を使ってメタバース内のユーザーの情報を保護しようとしていますが、ブロックチェーン技術は一部のサイバー攻撃者にとっては非常に脆弱です。 メタバース上のユーザーの「アバター」資産や情報が盗まれると、そのユーザーの価値は一瞬にしてゼロになります。 莫大な潜在的利益を得ることで、世界のハッカーコミュニティは、メタバースをサイバー犯罪の次の主要なターゲットとして狙うことができるでしょう。

③技術革新の次元

革命的な最先端技術やデジタル経済は、一国、あるいは国家の政治、経済、社会に多大な影響を与え、影響を及ぼすことがあります。 メタバースがもたらす影響は、次のようなレベルで発生する可能性があります。

政治レベルでは、メタバースがその国の政治的思考や社会文化に不可欠な要素となり、その国の政治的安全保障や文化的安全保障に微妙な影響を与えることになるでしょう。 経済レベルでは、メタバースはデジタル経済における産業の変化をもたらします。 先行者利益やデジタル・クリエイティビティの歴史を持つ国は、メタバースの変革プロセスにより適応できるかもしれませんが、他の国は自国の文化やデジタル経済にとって他国のメタバース・エコロジーとの競争に直面するかもしれませんし、メタバースと比較してデジタル経験が乏しい企業や産業は淘汰されるリスクに直面するかもしれません。 社会のレベルでは、メタバースは、雇用の代替や社会構造に大きな変化をもたらす可能性があります。 メタバースは、新しいデジタル・クリエイティブな仕事を生み出し、特にデジタル・クリエイターのフリーランス化を促進し、デジタル経済におけるマイクロ・スモールビジネスの発展を促します。 その一方で、メタバースは新たな社会問題を引き起こす可能性もあります。 例えば、メタバースでの没入感の高い体験は、若者の成長に悪影響を与える可能性があり、また、悪意のある者が中毒性のある「デジタル・ドラッグ」を作るために利用することもあります。 メタバースでは、一部のユーザーが長時間その中に浸ることができ、その知覚や行動が現実世界の人々のそれとは切り離され、世代間で大きな違いが生じる可能性があります。

このような国家安全保障への影響を考慮すると、メタバースの開発には規制やガイダンスを要するでしょう。 政府は規制プロセスにおいて、開発と安全性のバランスを取り、技術的なルールや道徳的・倫理的な基準を事前に準備する必要があります。 メタバースの国境を越える性質により、メタバースがもたらす様々な問題や課題は、将来の国際政治における潜在的な課題の一つとなり、アンチマネーロンダリング、制裁、金融規制、知的財産権などの分野において、規制やルールにギャップが生じる可能性があります。このため、国際社会は、この分野で探索的かつ建設的な協力およびコミュニケーションを行い、この新興分野を健全で秩序ある方向に導くことが求められています

ここまで

 

いかがでしょうか。

個人的には仮想通貨という文脈でいえば、メタバースがさらに浸透した先の世界では、ブロックチェーンが基盤として利用され、ビットコインをはじめとする仮想通貨がますます重要なポジションとなる、という意見に関して、その通りだなと感じました。

それ以外にも中国が考えるメタバースの構造と応用領域、また企業と政治の関係、日本・韓国・米国・欧州の規制、安全保障への影響について、少しでも皆さんのご参考になればと思います。

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