「テクノロジーを調べる」ときにあなたが意識すべきこと

今回は私がテクノロジーを調べるときに意識していることを少し書きたいと思います。

先日、自分の勤務しているコンサルティングファームの新卒社員から「プロジェクト内で新しく〇〇というテクノロジーを調べておいて、と言われたときにどうしていいかわからない」という質問を受けました。

コンサルティングファームでは、製造業、金融業、といった特定の業界に関する知見はある程度社内に蓄積されている一方で、新しいテクノロジーに関しては知見がゼロの状態からクライアントへの示唆出しやソリューションの提供まで実施しなければならないことが少なからずあり、かつそのプロセスが体系的なメソッドとして蓄積されているわけではありません。

私はブロックチェーンのリサーチャーをしていた経験があり、その際の体験を踏まえてその場では回答しました。が、確かにテック業界にある程度身を置いた経験のある人であればさておき、IT関連の何かしらのバックグラウンドを全く持たない新卒にとっては、確かにいきなりプロジェクト内で求められるテクノロジーのレベルや、おさえておくべき話というのはぴんとこないのではないかとその質問を受けてふと感じました。

そこで今回は、私がブロックチェーンのリサーチャーをしていた時代から個人的に意識している「新しい技術をゼロから理解しなければならないときにおさえておくべきポイント」に関して、私が最も知見のあるブロックチェーンを例にとって、ご紹介したいと思います。

主にコンサルティングファームの新卒のアソシエイト・アナリストがいかに短期間で特定のテクノロジーの全体感を理解し、上司やクライアントの会話についていきながらある程度の成果物を作成できる状態までキャッチアップするか、という観点にフォーカスした記事ではありますが、ITのバックグラウンドを持たないものの、何らかの形でテクノロジーに対する理解を迫られているビジネスパーソンの方にもお役に立てれば幸いです。

【技術のOverviewを理解する】

その技術は一言でいうと何がすごいのか?

PowerPointで資料を作成する際には、ワンスライド・ワンメッセージ(1枚のスライドに対して最も伝えたい1メッセージを要点として記載し、複数のメッセージを記載することを避けるというコンサルタントの基本スキル)が基本になります。テクノロジーに関しても、常に自分が今調べていることを「自分の言葉で」「一言で」説明できるかどうかチェックしながら調べる(成果物の形をイメージしながら作業する)ようにしたほうが良いです。

例:「ブロックチェーンとは、分散型ネットワーク上にて、複数当事者間の取引を検証可能な形で記録することができる分散型台帳技術の一種である。」

技術の背景・なりたちを調べる

その技術の経緯を調べます。特に自分が調べるべき内容がいわゆるバズワードなのであれば、有名になった何かしらのきっかけがあるはずです。例えばその技術のどういう特性がどう注目されるようになったのか、はたまた著名人が取り上げたから有名になったのか、などなどそのマイルストーンを一つずつ抑えていくイメージです。設計思想に関しても、この文脈で理解しておくとよいです。

例:ブロックチェーンはsatoshi.nakamotoという人が書いたホワイトペーパーに基づき実装されたデジタル通貨(bitcoin)の基盤技術であった。しかし、利害関係のある当事者同士のデータのやり取りがオープンに検証可能である、という特性は潜在的な他業種への利用可能性があるのではないか、と考えたエンジニアらにより、まず金融領域での利用方法が模索された。金融におけるユースケースが増えるにつけ、金融領域以外の他分野への活用が模索されるようになった。

技術を分解してコンポーネントに分ける

システムを低レイヤーから高レイヤーに向かってお客さんにその技術を紙一枚で説明するとしたら何を書くかを意識するとよいです。

システムのレイヤーがわからない人は「システム レイヤー 図」でググればいろいろなサンプルが見られますので、それらを頭に入れておくとよいと思いますが、多くの場合はおおまかに低レイヤーからネットワーク層、ミドルウェア層、アプリケーション層、の3層で捉えておけばよいと思います。

例:イーサリアムのバーチャルマシンはEVM、利用言語はJavaScriptライクなSolidityと呼ばれる独自言語であり、このSolidityを利用してEVMおよびその上で動作するスマートコントラクトを制御する。ネットワークにはParityと呼ばれるクライアントで接続する必要がある。通常のシステムであれば、ミドルウェアとして何かしらのRDBを用意する必要があるが、イーサリアムの場合はミドルウェアとアプリケーション層が一体化しており境目がないことが特徴である。などなど

類似技術はあるか。ある場合、類似技術との相違点は何か

調べる中で、その技術に類似する技術を予測候補などで見かけるようになるかと思います。その場合は相違点を最低1個は洗い出すようにしたほうが良いです。

例:ブロックチェーンとDBの冗長化はしばしば比較され、時に「ブロックチェーンを利用しなくとも、DBを冗長化すればシステムとしては十分なのではないか」という意見がある。しかしDBの冗長化は1つ、もしくは利害の一致する複数組織が組織内部のデータを管理する際のバックアップを目的としていることが多いのに対して、ブロックチェーンは複数の利害が対立する組織が共通の目的のために同一データベースの監視をできるようにすることを前提にしている(本当はもっといろいろ違います)

ブロックチェーンではないですが、Machine Learningを調べるのであれば、Deep Learningとの違いなどを把握しておくとよいかもですね。

【ビジネスへの応用を理解する】

上記のように、技術的なOverviewを頭に入れたうえで、それがどうクライアント・自社のビジネスに役立つ(もしくは、既に役立っている)のかを下記の観点で把握します。

それが使われている実際の事例(ツール、アプリ)はあるか

自社内でそれを利用しているケース、競合他社・その分野のリーディングカンパニーのケースは、会社とプロジェクト名の対応だけでも覚えておくとよいですね。

例:ブロックチェーン⇒パブリックブロックチェーンであればビットコイン、プライベートブロックチェーンであればHyperledger Fabric,Cordaといった製品が有名で、後者はエンタープライズ向けにしばしば利用される。
有名なプロダクトにIBM主導のTradeLens、アクセンチュア主導のポイントシステムmyCoin、ブロックチェーン×DXでしばしば名前の挙がるLayerX社と三井物産が共同設立した三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社などがある。

この部分はプロジェクト内でより詳細な調査が必要となる場合が多いと思いますので、その場合はざっくりとしたキープレイヤーの把握のみで十分だと思います。

その技術に対する自社としての既存の取り組みはあるか

これはコンサルティングファームに限った話ではありませんが、もしSIerをはじめ、IT企業に勤務されている方であれば、すでに自社内部でその技術に関する組織が複数あるかもしれません。外資系企業であれば、「Japan Branchには部署はないが、グローバルでみるとチームがある」といった場合もあるかもしれません。

その場合は自社内部での取り組みについても、社内のポータルサイトや組織図を見ながら理解しておくことで、プロジェクト内で困ったときに社内でコンタクトすべきキーパーソンを特定することができます。

調査手法の選定

調べる媒体の優先度は個人的にはネット⇒書籍⇒人がおすすめです。

通常のリサーチ業務であれば、書籍を多用するかと思いますが、ブロックチェーンはじめNew Technologyの場合、書籍になっていないがネットではエンジニアをはじめとする有識者によってすでに活発に議論されている、という場合が多いです。ですので、調べるべきテクノロジーが新しいほど、ネットを優先して調査することをお勧めしています。

人に聞くためにはある程度上記の内容を理解した上でないと、有識者の貴重な時間を無駄にすることになってしまいますので、私はネットや書籍で自分なりの全体像と仮説をもったうえで、社内・社外の有識者へヒアリングしています。

いかがでしたでしょうか。もちろん他にもプラスアルファでできることは色々あり、本当はテクノロジーを真に理解しようと思う場合手を動かしてみるのが一番良いのですが(ビットコインのテストネットに接続してみてhello worldを表示してみる、など)、少なくとも新卒の段階ですと、上記の内容を理解するにも数日かかることがあるかと思いますので、いったんはこれらの内容を理解することが最優先ではないかと思いますし、これらが理解できていれば、「マネージャーの期待値=スタッフレベルに作業をする上で知っていてほしいと思っていること」の期待値は満たせているのではないかと思っています。

この記事がみなさんのリサーチ業務のお役に少しでも立てていれば幸いです。

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