【書評】『アフター・ビットコイン』は金融領域でのブロックチェーンを考えるための基本書。ビットコインの課題を金融政策の観点から考える

今回は元日銀の決済システムの第一人者である中島真志教授による『アフター・ビットコイン』の書評を公開します。

中島教授は一橋大学を卒業後日銀で勤務し、現在は麗澤大学経済学部の教授を勤めている金融領域のプロフェッショナルです。その著者がビットコインバブルの当時、どのようにビットコインとブロックチェーンに向き合っていたかが本書でわかると思います。

「ビットコインはダメだがブロックチェーンは良い」と言う思考

まずこの本全体を通して一貫して主張されているのは、「ビットコインは既存の経済を大きく変えるほどのものにはならないがその基盤技術であるブロックチェーンは金融領域を大きく変えるインパクトをもつ」と言う考えです。

これは仮想通貨をはじめとするパブリックブロックチェーンの領域の人にとっては否定したくなる意見ではありますが、あくまでも著者は日銀出身であり、金融領域のプロフェッショナルである点に注意する必要があります。

その上で本著では

  • なぜビットコインが既存の経済圏を破壊するほどのものになり得ないのか
  • ブロックチェーンはなぜ金融分野で着目されるのか
  • ブロックチェーンの活用が特に期待される「中央銀行のデジタル通貨発行」「国際送金」「証券決済」の実証実験例

の順で著書のタイトル通りビットコイン時代の次のトレンドを既存の金融領域から捉えています。

日銀出身の著者が考えるビットコインの課題

まず著者はビットコインについての法的な議論を整理したあとで、「法律的には通貨ではないものの、金融論的側面から貨幣の3要素(価値の交換手段、価値尺度、価値の保存)を見ると通貨にかなり近い」としています。

しかし一方でボラティリティの高さなどから3要素の中でもインベストメント・アセットとしての価値の保存のみがもっぱら行われ、価値の交換手段や価値尺度として機能していることはほとんどないことを指摘しています。

また信頼を損ねる事件として、資金洗浄が問題となったシルクロード事件、資金の不正流出が問題となったマウント・ゴックス事件、ビットコインによる身代金を要求したランサムウェア事件などが続いたことなども指摘しています。

シルクロード事件についてはこちらの関連記事で解説しています。

最大の闇Web「Silk Road」と仮想通貨

 

そしてビットコインの技術自体についても懸念を示しています。一つがよく知られたスケーラビリティ問題ですが、特に個人的に頷けたのが「発行上限とリワード」に関する問題でした。これはビットコインの発行上限2100万BTCに達しマイニング報酬がなくなった世界で、わずかな手数料しかもらえないマイナーは果たしてマイニングを続けるインセンティブがあるのだろうか?と言う問題提起です。

発行上限に達するのは2140年頃とされており、私たちはその頃生きてはいないでしょうが、経済的インセンティブ無しではブロックが生成されないと言う「ブロックチェーンの死」をビットコインが迎えてしまうのではないかと言う問題提起には一理あると思われます。

https://twitter.com/tohoku_fassefoy/status/1091286638813077505

 

また

  • BTCとBCHのハードフォークを巡るオフチェーンガバナンスの不備
  • 投資指標の不存在、利子や配当がない=キャッシュフローを割り引いて算出される理論価格はゼロ
  • 保有・採掘が中国に極端に偏っている(2017年本書の執筆当時、取引の大部分は中国のマイナーによりマイニングされ、BTCの保有の大部分も「ファイアウォールの内側」のものであった)

点などが他にも指摘されています。

ブロックチェーンによる金融領域の変革

一方で著者はブロックチェーン、特にコンソーシアムチェーンを利用した金融領域の帳簿作成やノストロ照合と言った煩雑な事務にかかる膨大なコスト削減に期待しています。

まず著者は金融と言う領域の特性上、コンセンサスアルゴリズムにはpBFTを利用することを勧めています。pBFTはアプリノードとコアノードを区別し、コアノードのみに取引承認の権限を与えます。これによってPoWやPoSに比べ取引を高速処理することが可能になるので、決済との相性が良いだろう、と言う考えです。また取引当事者以外には取引内容が見られないよう、プライバシーの制限をもうけることも提案しています。

中央銀行によるデジタル通貨発行

著者は具体的なブロックチェーンの導入について、「各国の中央銀行によるデジタル通貨発行」「国際送金」「証券決済」の大きく3つについて、特にインパクトがあるだろうと主張しています。

国際送金としてはリップルに着目しているようで、証券決済については「ファイナリティの確保」「証券と資金の同時決済の実現」「ネッティング機能の保持」「リプレイスメントコストへ配慮」した上で、現実的にはインフラ未整備で人手によるマニュアル処理の多い分野に導入すべきとしています。

そして個人的にもっとも興味深かったのが中央銀行によるデジタル通貨発行に関する議論です。今回は簡単に概略だけにとどめておきますが、日銀に勤務した経験のある著者ならではの視点が大量に含まれており、この部分を読むだけでもこの本を買う価値があると個人的には思います。

そもそも中央銀行によるデジタル通貨発行を捉える上で、筆者は「現金の転々流通性や匿名性を確保した上で、コピー不能にする」ことが必要であるとの前提を指摘しています。

そして中央銀行のマネーとしては「銀行券(現金)」と「中央銀行当座預金」とがありますが、中央銀行が仮に国民に直接銀行券をデジタルで発行してしまうと既存の市中銀行の貸出業務を中抜きにしてしまい、金融仲介機能が低下し、経済に与える影響は少なくありません。この点から直接的な発行よりも、デジタル通貨をまず中央銀行から市中銀行に対して発行し、それを個人や企業が市中銀行経由で受け取る仕組みの方が、現実的なのではないか、との指摘をしています。イギリスの中央銀行Bank of EnglandのRSコインはこの動きに沿った一例であり、著者はこのRSコインを中心に解説しています。

実はデジタル通貨の発行はブロックチェーン登場以前にも考えられてきたものですが、これらの前提を満たし、より現実的な発行が考えられるようになった点にブロックチェーンの意義があるものと考えられます。

 

このように、『アフター・ビットコイン』はビットコインバブルの時期に冷静にビットコインの抱える課題を指摘し、ブロックチェーンの活用可能性について金融の観点から整理した本として高い評価を受けています。

中島教授が書いたこの本は、2017年出版とやや現在からすれば古い情報はありものの、依然として「ビットコインおよびブロックチェーンに対して、金融業界の人はどう考えているのか?」を捉えるためには必要不可欠な本になっていますので、ぜひ以下のまとめのみならず、実際に全文を通して読むことをお勧めします。

 

他にもこちらの本は一度目を通しておくと、ブロックチェーンの全体像の理解の助けになるかと思います。

初心者が仮想通貨・ブロックチェーン技術を学習するためのおすすめ本・書籍を紹介する。金融、技術からプログラミングまで。