河合健弁護士が語る、今後の仮想通貨規制に関する金融庁の見通しとは?

この記事は11月19日、20日に日比谷で開催された「Node Tokyo」において河合健先生が語った内容を簡単にまとめたものです。
先月のイベントの内容ではありますが、仮想通貨実務についてのエキスパートである河合先生が登壇しお話された貴重な機会ですので、記録として共有しておきたいと思います。

仮想通貨取引-取引所、OTC、ICO

まず河合先生は仮想通貨交換業について、取引所は「体力がないと難しいだろう」とおっしゃっていました。同様にOTC(相対取引)に関しても、先行きは厳しいのではないか、という見通しでした。

これは顧客の資産保護やハッキング対策を十分に行えるだけのリソースを保有する企業でないと、金融当局(金融庁)のお墨付きをもらえない、ということを意味していると考えられます。

ICOに関しては、デジタルトークンのほとんどが仮想通貨および有価証券に該当する蓋然性が高いだろうとのことでしたが、一方でICOを行うプロジェクトの目的や手法などについて整備され、規制のスキームがはっきりすることで、ペイメントやユーティリティトークンに関しては有価証券と同様の規制ではなく資金決済法の販売法スキームによって販売できるようになる可能性があるのではないか、との指摘もされていました。また法制度が定まれば、自主規制団体のルールも策定され、徐々に規制の枠組みも確定してくるものと考えられています。
個人的に河合先生のお話を聞いていて、やはり現在はICOを禁止する明文の規定がなく、これが立法により「どんなICOがどんな法律の要件を充足する必要があるのか」が明文化されることで、法律を前に躊躇してしまう一部スタートアップにとっては追い風になるのかな、と思いました。
また河合先生によれば、最近流行りのSTOに関しては、やはり金融商品として扱われ、金融商品取引法による規制にカテゴライズされるであろうとのことでした。
STOに関してはこちらの初心者向けSTOまとめ記事で詳しく書いたのでよろしければご覧ください。

トレンドとして注目される分野- ステーブルコイン、ウォレット、デリバティブ

続いて河合先生がお話したのは、2018年後半に注目されるようになったステーブルコインについてです。
まず法定通貨建てのステーブルコインは日本で日本の居住者に対して発行する場合、完全に法定通貨建ての資産であることから仮想通貨ではなく為替取引に該当する可能性があると指摘。それ故に、もし日本で発行を検討している業者は資金移動業などのライセンスが必要になってくるかもしれないし、あるいは海外で発行した上でP2Pで日本でも展開するモデルでの業務なら可能であろう、との考えでした。
仮想通貨建てのステーブルコインの場合は、そのステーブルコインは仮想通貨ではないため、法律上の上場審査のようなものはないものの、取引ペアを特定のものに制限する可能性はある、とのことでした。
そして今後の規制についてよく注意せねばならないものとして河合先生が言及されていたのが、ウォレットです。仮想通貨交換を伴わないウォレット業であれば現在は交換業のライセンス不要で事業が展開できるものの、秘密鍵を預かるタイプのウォレットに関しては結局顧客の資産を預かっているという点で規制に抵触する可能性が出てくるのではないかとのことでした。これを考えると結局のところ秘密鍵を預からずにDecentralizedなウォレットの方が、規制によってビジネスが行き詰まることはないものと考えられますし、ユーザーとしても秘密鍵の管理につき多少リテラシーは求められるものの安心感を得られるものと思われます。
また仮想通貨におけるデリバティブ取引については特段の規制はなく、自主規制とのことでした。しかし株式のデリバティブと同様に、金融商品取引法による規制は考えられるとのことでした。

今後の世界的な規制の見通しについて

最後に河合先生は規制の流れと、それを踏まえた上でビジネスをするスタートアップが取りうる手法についてのお話をされていました。
そもそも日本では配当や財産の分配があるもの=Security token(セキュリティトークン)、配当や財産の分配がないもの=Utility token(ユーティリティトークン)として捉える風潮がありますが、このうちユーティリティトークンは資金決済法の規制範囲になり、セキュリティトークンに関しては有価証券の一種として株やファンドをトークン化したものを金商業者を通じて取引するか、適格投資家に投資してもらうことになるだろう、とのことでした。そして日本に限らず他の国も、世界的な流れとしては金融の規制の方向性に従うことになるだろう、との見通しでした。
ではこのような規制なかで、スタートアップはどのように立ち振る舞えば良いのでしょうか。
この点につき、河合先生は「環境の変化を認識すべきである」とのこと。
具体的には、投資・取引所の文脈ではより規制範囲が広範に・厳格になり、金融サービスと化すためにスタートアップにとっては厳しい戦いが続くものの、適格投資家や大企業、「ウォール・ストリート」(=すなわち既存の大手金融機関)にとっては歓迎すべき規制の方針であるようです。
故に自らは販売しない、という方向性の方がスタートアップにとっては良いようで、例えばシステムベンダーやサイバーセキュリティのようなサービスプロバイダを目指す企業や、マネーロンダリング対策ベンダーであれば、特段求められるライセンスはありません。
また大企業と提携することで規制をクリアするためのリソースの調達が可能になることもあるであろうし、日本で事業を展開することが難しければ香港、スイス、マルタといった仮想通貨フレンドリーな国・地域で起業した上で、日本に逆輸入するのも一手であろう、とのことでした。
個人的にはスタートアップが取りうる手法の話は示唆に富んでおり、スタートアップでもできることがたくさんあるということを示してくださった点で、さすが河合先生!と感じました。
なお河合先生はアンダーソン・毛利・友常法律事務所に所属されており、事務所として『Fintech 法務ガイド』という本を出版されています。河合先生は中でも仮想通貨のページを担当されているので、この記事を読んでみてさらに興味が湧いた方や仮想通貨の事業を何かやってみたいけれど、規制がどうなっているのかわからない、という方はぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか?
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