中国における新文化運動と白話化の課題について。中国の近代史における胡適、魯迅らの口語化議論を整理する。

今回は中国の近代化でしばしば言及される「白話化」に関する課題を分析します。
近代中国においては「近代化革命」の一環として文学革命が何度か行われました。特に白話化(口語化。読み書きをするときの文章と話すときの文体を一致させること)が常に革命のメインストリームとして位置付けられていました。白話化と言っても広大な中国の地域差から喧々諤々の議論が交わされたりしており、魯迅と胡適による意見の相違などがありつつ、なかなか意見がまとまらなかったのですが、陳独秀の『新青年』に始まる「新文化運動」が後に中国の対外的政治態度にまで影響を及ぼし、白話化を強力に推進したことに歴史上の意義があるとされています
私は過去に新青年の原典や中国語の文体に関する論文をよんだことがあり、この内容はなかなかシェアされることがないものである一方中国の近代化においては文化面から非常に重要な役割を果たした重要度の高いトピックだと感じています。
かなり専門的な内容ではありますが極力中国語の議論を避け、平易に書いていくので、ぜひこの機会にあまり授業では習わない中国の近代史における文化的側面にも興味を持っていただけたら嬉しいです。

中国における文化運動と白話化

そもそもまず中国の文学革命が目指したものを整理すると、
  • 白話化(=言文一致)
  • 従来の儒教的価値観からの脱却
の2点に集約されます。この2点を達成することで日本や欧米諸国のような近代化を思想面から進めようとしたのです。
ゆえに、文学革命が唱えられてからほどなくして「白話文学」が文壇を席捲し、一方で文語文学は衰退の一途をたどる、というのが文学革命の一連の流れになります。
created by Rinker
¥968 (2019/10/20 03:10:14時点 Amazon調べ-詳細)
しかしこの「白話化」においては、『新青年』以前には以下のように非常に困難を伴ったものでした。
具体的に当時の課題を見ていきたいと思います。

共通語の普及と文学の発展進度の不一致

まず広大で多民族国家である中国においては、文学革命は必ずしも全国区で均一に進められたわけではありませんでした。というのも、中国では「共通語(普通话)」の普及が新文学の進展のスピードについていけておらず、新文学の白話文と白話化を推進する作家自身の作品における「話すように書く」文体にはしばしばズレが見られていたためです
実際に「官話」と呼ばれる共通語を話す地域以外に住んでいる作家はすでに先行で発表された官話≒白話の作品を参考にしながら白話文を書いており、これは必ずしも全国レベルでの共通語の徹底→言文一致のフローがが達成されていないことの典型例でしょう。
なお現在の中国においても方言は様々で、中国人同士でもお互いの方言を聞き取れない時があるようです。

中国の方言まとめ。北京語、普通語、上海語、広東語の違いとは?

各新聞の白話化の進度のズレ

また白話化は文学ジャンルにおいてもその進行度合に差が現れていました。
一応「詩」「小説」「新聞」と言った各表現手段の中でそれぞれ白話化が試みられていたものの、それでも全ての文学ジャンルですべての媒体が画一的に白話化が実現されたわけではありませんでした。
例えば詩や小説で白話化は割と早く進みましたし、それに付随して当時革新的とされていた新聞『大公報』等の社説は比較的早く白話文を採用したものの、1920年代においても、国内各地の新聞の社説や『中央日報』などの保守系の新聞社の社説は文語のままだったのです。

「白話」の定義の不明確さ

さらにこの白話化推進を困難にしたのは、「そもそも白話を何とみなすか」という定義が定まっていないことにありました。
例えば、有名な中国近代文学の先駆者・胡適と魯迅の間では「白話化」に対する見識の相違があり、胡適が純然たる言文一致を白話化とみなした主張を展開したのに対して、 魯迅は「小声」「方言」また必要があれば「外国語」を取り入れるなどの形で、絶対的な言文一致よりも、既存の文学との調和の観点から「白話化」という言葉を使用していました。
すなわち魯迅はむしろ文語を積極的に取り入れた白話化を目指したわけですが、これによってむしろ多数の人々に受け入れられ、当時の文学や近代小説において増えて言った人物の「内面」の描写に柔軟に対応していった、という背景があります。
魯迅はおそらく日本でもっとも有名な中国人の作家でしょう。日本に親交が深く、日本での生活中のエピソードにまつわる小説『藤野先生』も執筆しています。
魯迅研究の第一人者、竹内好先生の訳がスタンダードで読みやすいです。中国人は一般的に古典や歴史を重視する傾向がありますので、少しでも中国人とのビジネスの機会がある人はこのような魯迅の本を読んだ話をするだけで非常に好印象を持ってもらえるでしょう。
created by Rinker
岩波書店
¥748 (2019/10/20 03:10:14時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥1,430 (2019/10/20 05:12:13時点 Amazon調べ-詳細)
次に『新青年』および狂人日記の文体を読み解くことで、当時の中国における「口語」と「文語」の違い、また「白話化が必ずしも統一的な標準語に準じて行われたわけではない」点について、こちらの記事で解説していきます。

中国近代の文学革命の代表作、魯迅の『狂人日記』から読みとく白話化の課題とは?